「タダでごはんが食べられるよ」は、最高にモテるキラーワード【後編】

デリシャスな起業家たち/ 山本 海人

原価率5割の激うまサンドイッチ。日本で食べられる所がないから店を作った【前編】を読む
今の時代を映し出すヒップな飲食店の経営者にインタビューし、その価値観に迫るシリーズ「デリシャスな起業家たち」。

第2回のゲストは、全国に4店舗を展開するサンドイッチショップ「BUY ME STAND(バイミースタンド)」を創った山本海人さん。最近は内装などを手がけた蕎麦屋「SOBER(ソバー)」もオープンし、業態の幅を広げています。片や、アパレルブランド「サノバチーズ」のデザイナーとしても活躍する山本さんは、「アパレルに比べて飲食業は儲からない」と断言。それでも、飲食の店を出し続ける理由とは。

アパレルの卸先から、食材を仕入れられる

−−現在、BUY ME STAND(バイミースタンド)は、東京・渋谷、横浜、福岡、沖縄に展開されているんですよね。

はい。直営店は渋谷と福岡。横浜と沖縄はフランチャイズです。このサンドイッチ屋が落ち着いてきたんで、違う業態も手掛け始めました。それが渋谷の道玄坂にオープンした「SOBER(ソバー)」というお蕎麦屋さんです。

−−山本さんはどういうふうに関わってるんですか?

内装、コンセプトメイキング、料理人などのキャスティングのあたりですね。食材の仕入先も引っ張ってきてます。アパレルの方で、全国各地に50軒くらい服の卸先があるんですけど、そのなかに一次産業で働いてる人がいるんです。だから、わさびとお茶は静岡から、へぎそばは新潟から、鰹節は鹿児島から……と既存の流通を通さず直接取引できるんです。

−−すごいですね! アパレルの事業と飲食業でそんなシナジーが生まれるとは。

このやり方だと、絶対うまいもんを作れるんですよね。金額も抑えられるんで、今のところ「白木屋」よりも価格が安いんじゃないかな(笑)。でも普通は、バラバラに仕入れないんですよね。今の料理人は既存の仕入先に一括で注文したがるので、どうやってわかってもらおうか考え中です。

−−他にもいろいろな業態のお店を出そうとしているんですか?

もう一つ進めてるのが、歌舞伎町でキャバ嬢が激辛料理を作るっていうお店。そこは、内装と集客を手伝ってます。最終的には何億もかけるようなホストクラブの内装をやってみたいんですよね。このお店はそのジャブみたいな感じ。この店が歌舞伎町で評判になったら、「あれ、どこの誰がやったの?」ってなるじゃないですか。それで、足がかりをつくっていきたいなと。

−−やはり飲食店を出すのはおもしろいですか?

おもしろいっていうか……タダでごはんが食えるってめっちゃ最高だと思うんですよね。うちの会社は基本的に、従業員はみんな運営店でタダで飯を食べられるんですよ。もちろん、僕も。たぶんね、いい飲食店でタダでおいしいごはんを食べられるって、外車に乗るよりモテると思う。

−−その発想はありませんでした……!

なんか、着飾ったりするよりすげーモテると思って。「いつでもタダで食っていいよ」ってキラーワードじゃないですか?

−−異性にモテるというより、全方向的に人が集まってきそうです(笑)。

そうかもしれません(笑)。働いてる子はタダで食べられるっていうのもそうなんですが、洋服もあげてるんですよ。衣食住のうち衣と食が満たされるから、家賃だけ稼げばいい。そう考えたら、そんなに給料は高くなくても豊かな生活ができるんじゃないかと思ったんです。

年収1千万円のチャンスがあっても、手を伸ばさない今の若者

−−今、社員は何名いるんですか?

4人ですね。アルバイトが30〜40人くらいいます。最初は個人でサンドイッチ屋もアパレルもやろうとしてたんですけど、人を雇うとその雇った人に家族ができたりして、必要なお金が増えていく。事業はどんどん大きくしなきゃいけないんだ、と気づいたんです。それでいろんな業態のお店を出してるところもありますね。

−−アルバイトの面接などは、山本さんもされるんですか?

いえ、店長に任せてます。人数は決めずにバジェットだけ決め、何に使ってもいいよと言ってあるんです。だから、店長がたくさんシフトに入って自分の取り分を多くしてもいいし、人を雇って店に出る時間を減らしてもいい。ってやってみたら、けっきょく(直営の店長)2人とも人を増やしてますね。

−−バイミースタンドのような有名店だと、求人媒体などに出稿しなくてもアルバイトが集まりそうですね。

そうですね。向こうから働きたいって来てくれるので、その中から面接しているみたいです。うちで働く子は、時給目当てではないと思うんですよ。時給が高くて楽な仕事はもっと他にあるんで。だから、それ以外のメリットをいろいろ提供できたらと思ってます。

その一つが、勤務地を交換できるということ。バイミースタンドを全国で展開したのは、沖縄と渋谷とかで1年に何ヵ月かずつ働けたら楽しいだろうなと思ったからです。でも、あんまり移動したいってスタッフはいないですね(笑)。

−−みんな、一つの場所で働きたかった(笑)。

そうみたいです。同じ場所にいたら飽きるのは、僕だけなのかも(笑)。あと、うちはアパレルもあるから、サンドイッチ屋で入った人が洋服の営業をしてもいいんですよ。30歳になった節目でキャリアチェンジ、といったことも社内でできます。

−−働き方や職種に、いろいろ選択肢があるんですね。

服のデザインもやる気があったら任せたい。服のデザインは、一型数万円の買取制にしていて、洋服の卸先への営業は10%のキックバックをつけています。だから、1億円分売れば1千万円手に入る。僕だったら絶対やる。でも、今の若い子はあんまりお金が好きじゃないみたいで、やらないんですよ。すごく不思議です。

−−年収1千万のチャンスがあっても、チャレンジしない。

だって、ちょっとした会社の社長くらい稼げるんですよ。しかも、自分で経営してるんじゃなくて、売るだけだからリスクもない。いやあ、なんでやらないのかマジで不思議です。若い子たちは、今の生活に満足しているように見えます。でも、この先どうするの? って僕が逆に不安になる(笑)。

−−「不思議」ということは、山本さんはお金が好きなんですか?

お金はないよりあったほうが断然いいですよね。選択肢が増えるじゃないですか。

−−アパレルブランドの「サノバチーズ(Son Of The Cheese)」も、実はお金の隠語だと聞きました。

そうです、そうです。稼ぐの大好き。というか、商売するのが好きですね。まあ、お金を使うのも好きですけど。稼いで払う、その繰り返しです。店とか作ると大きなお金がすぐ出ていっちゃうから、貯金はありません(笑)。

人が集まる場所をつくれるのが、飲食業の醍醐味

−−新しい店を出すときは、集客数や客単価、原価率などからどれくらい儲けが出るか計算しますか?

いや、しないですね。まあ収支がトントンだったらいいかな、くらいです。根本的に飲食業は儲からないんですよ。初期投資めっちゃ高いし。物件や機材に2000万円とかかかるから、そのお金でマンション買って貸したほうが、はっきり言って楽に儲かる。

−−それでも飲食業をやるのはどうしてですか?

楽しいからですね。飲食業って、いろんな人に会えるんですよ。アパレルの仕事だけやってたときは、アパレル業界の人にしか会えなかったけど、飲食業は垣根を越えていろんな業種の人と会える。それがめっちゃいいなって。人が集まる場所をつくれるのが、飲食業のおもしろさだなと思います。

−−バイミースタンドは、今後も全国的にお店を増やしていくのでしょうか。

うーん、何店舗かやって気づいたのは、観光地じゃないとむずかしいんですよね。ぶっちゃけ、なにもない地方はマジできついです。海外からの観光客が来るような店を観光地に出す。そうじゃないと、成り立たないと思います。やっぱり、外国人観光客のほうが圧倒的にお金を使うので。バイミースタンドの渋谷店も、観光スポットとして人気があると思うんですよ。ただしここは、外国人観光客ではなく日本人向けの観光スポットって感じですけど。

−−地方からバイミースタンドのお店を目指して人が来る、という意味ではたしかに観光地ですね。

東京は一大観光地ですからね。でも、東京の家賃は上がり続けていて、あんまり儲けが出なくなっている。だから、地方を盛り上げないとダメかなとも思っていて。僕は熱海に住んでるんですけど、今そこでおもしろいことできないかなと思ってます。

−−東京で仕事をする方で伊豆在住の方とお会いすることはありますが、熱海は珍しいですね。なぜ熱海に。

ちょっと寂れてて、そこがいいんですよ。レトロなデザインの旅館や店も残ってますし。最初はつまんねーなと思ってたんですけど、温泉の良さに気づいてからは熱海最高じゃん、ってなってます(笑)。実は熱海って1日約8千人の人が行き来してて、週1で花火大会やってるんです。もっと人が来てもいいポテンシャルがある。だから、新しい遊び方の提案をしたらいいと思うんですよね。

−−熱海にも山本さんプロデュースの店ができるかもしれないですね。それはすごく楽しみです。

昔はこういう町おこしとか「知ったこっちゃねえ」って感じだったんですけど、最近けっこうおもしろいなと思います。人間的に成長したのかもしれません(笑)。