国内100店舗以上のアミューズメント施設を展開する、ラウンドワン。ボウリング場を中心に、ゲームやカラオケが楽しめる「遊びの複合施設」を日本に根付かせ、近年はアメリカで成長中だ。創業から39年目、業界で培った「顧客に選ばれる思考法」を、杉野公彦社長が語ってくれた。
娯楽施設は「差別化しづらい」
友達や家族、恋人が「どこかに遊びに行きたいね」と言うとき、ラウンドワンがぱっと浮かぶ。そうやってお客様から「選ばれる」店舗であるために、われわれは進化を重ねてきました。その結果、ボウリング、ゲーム、カラオケなどを集めた「遊びの複合施設」を国内で100店舗超、北米で30店舗超展開し、年間約4500万人のお客様に足を運んでいただいています。

遠くからでも目立つ、ラウンドワンの店舗
お客様から「選ばれる」と言いましたが、そもそも娯楽施設は、他店との差別化が非常に難しい。例えばレストランなら、素材やメニュー構成、味で何万通りもの違いを出せます。しかし娯楽施設の場合、ボウリングやカラオケの機械を各メーカーさんから買って設置するのが基本です。すると、どの施設にも大なり小なり似た機械が並ぶことになります。
では、どうやって差別化するのか。似たケースとして、家電量販店を思い浮かべていただけるとわかりやすいでしょう。
冷蔵庫を買いたいお客様がいたとして、どうやってお店を選ぶのか。昔は町の電気屋さんに行っていましたが、今はほとんどの人が量販店に行きますね。町の電気屋さんも量販店も、置いてあるのは同じメーカーの冷蔵庫です。違いは何かというと、「品揃え」でしょう。

この30年近く、家電量販店は圧倒的な品揃えによって、顧客に驚きと感動を与えてきました。そうやって既存の電気屋さんを凌駕し、選ばれる店舗になっていったのです。
われわれのビジネスも同じです。1台1台の機械は同じでも、品揃えが抜群に良く、来場したお客様が「あれも、これも楽しめる」と驚けば、他店と差がつきます。そして迷ったときに「あの店に行こう」と選んでいただける。
こうしたコンセプトは、ラウンドワンの1店舗目を出したときから変わっていません。
10倍の投資は、果たしてリスクか
私がこの業界に入ったのは、今から39年前の1980年。大学2年生の私が、父が経営していたローラースケート場を手伝ったのがきっかけです。店は鳴かず飛ばずで、父はほどなく閉店を決めました。しかし、店番をしながら「どうすれば人が来るか」を考えていた私は、このまま終わらせたくないと考えました。
当時は携帯電話もなく、大学生は仲間と集まって時間をつぶす場所を探していました。集まるのは1ヵ所でも、その中で遊ぶ選択肢は、多いほうがいい。ボウリングやビリヤードが楽しめて、待ち時間にゲームもできる。そんな店なら、お客様から「選ばれる」確率が高まるだろう。
これが、当時の私がたどり着いたアイデアです。

どうしてもこのアイデアを試したくて、経営計画書や店の図面を100枚以上描き、反対する父を説得しました。結果として父が貸してくれたのは、2000万円。その資金でボウリングのレーンを作り、中古のビリヤード台やゲーム機を10台ほど並べました。
リニューアル後、店には続々と若者がやってきました。1ヵ所でいろんな遊びが楽しめるというコンセプトは、正しかったのです。
これが「遊びの複合施設」の原型となり、ラウンドワンはより広い店舗で設備を充実させながら、2店舗、3店舗と拡大していきます。その際、小さなボウリング場1店舗なら1億円の投資で済むところを、うちは10倍、20倍とかけてきた。これを「リスク」と捉える人がいますが、私は少し違う考え方をしています。

1億円で100店舗を作るか、100億円で1店舗を作るか。その選択を迫られたら、多くの人が前者を選ぼうとするでしょう。100店舗あれば、そのうちの1店舗がつぶれても100分の1を失うだけ。資金を分散する前者の方が、「リスクが低い」というわけです。
しかし実際は、100億円かけて1店舗を作れば、圧倒的な品揃えで競合他店よりも有利に立つことができます。お客様に新鮮な驚きを与え、「また来よう」と思っていただける。そうなったとき、その店が一人勝ちし、1億円しかかけていない100店舗が全滅する可能性だってあるのです。
近隣に同じような店がなければ、100億円かけた店が、その地域でダントツにインパクトを持つでしょう。そして、いったんお客様に与えたインパクトを、他店が覆すのは難しい。
お客様が「どこかに遊びに出かけたい」と思ったとき、最終的に選ばれる店舗は「1つ」です。その1つに入れなかったら、100店舗あっても仕方ありません。このように、選ばれない理由を排除することが、リスクを下げる最良の方法だと思います。
「このままでいい」とは絶対に思わない
創業以来、倒産の危機は何度もありました。阪神淡路と東日本大震災、多角化の失敗、そしてリーマン・ショック後の会計制度変更によって生じた、ノンリコースローンによる約2000億円の有利子負債……。乗り越えてきたとはいえ、大きな波をかぶり苦労しました。
とりわけ約2000億円の負債を抱えたときは、眠れませんでした。でもなんとかしなければいけない。私は個人資産の約50億円を全部会社に入れて、返済の決意を見せることで、金融機関をつなぎ止めました。マイナス分は特別損失として計上し、非常に苦しい赤字決算を続けました。
中継ぎのサラリーマン経営者であれば、数字を取りつくろい、痛みを先送りする選択肢もあったかもしれません。しかし、私はオーナー経営者であり、逃げ出すわけにはいきません。すべてをさらけ出して6年でほぼ完済。株主をはじめステークホルダーの皆様にも、「私が責任をとる」と説得し、待っていただきました。

そうやってぎりぎりの決断を下しながら、都度、実感してきたことがあります。それは、将来のために目の前のリスクを取らないと、いずれもっと大きなリスクに呑み込まれるということです。
日常にも、リスクは潜んでいます。よくあるのは、店舗にそこそこ人が入っているのを見て、「今日もお客様が来て、同じ機械で遊んでいるから、このままでいい」と思ってしまうこと。これはとても危険で、お客様を他店に奪われるリスクを放置することになってしまいます。
わかりやすくいうと、こういうことです。美味しいカウンターの寿司屋を見つけて、月に何度か通うようになったとします。そのとき、毎回同じネタを出されたら、さすがに飽きますよね。頻繁に訪れるお客様がいるなら、同じ季節でもちょっと魚を変えるとか、料理法を変えるなどできる。そういう工夫をしない寿司屋はどんなに美味しくても、やがて客足が遠のきます。
「まだいけそう」なうちに勇気を持って変えないと、じっくりじっくり売上が下がって、気がついたらお客様はいない。そうなってからでは、遅いのです。

ですから私は、どんなにうまくいった店舗があっても、次にまた同じ店を作ろうとは思いません。今日と同じことを明日もしていたら、いずれお客様が離れていく。そういう気持ちで、日々お客様に新鮮な驚きを持っていただけるよう努力しています。
究極の理想は、毎日機械を取り替えること。そうすればお客様がいらっしゃるたびに、驚きと発見があります。しかし資金には限りがあり、そんなことは夢物語です。ですから全体を見ながら、どのタイミングで何を入れ替えるか。お客様の感動と利益の両方を睨みながら、引き算と足し算を繰り返す。そういうバランス感覚が大事な商売だと思います。
そのために当社は、業界では類を見ない「新しい機械の開発」を始めました。この挑戦については次回、ぜひお話しさせてください。
ラウンドワン