第7回 本来のパフォーマンスを発揮させる、心と体の脱力とは?

3分でわかる・ 「99%抜けるドリブル理論」入門/ 岡部 将和 、 Noritake

第6回「ディフェンスと対峙する時の心構え」を読む

2つの力み

読者の中には、練習ではうまくいくのに試合だとうまくいかない、大事なところで緊張して力んでしまう、という経験をしたことのある方がたくさんいるのではないかと思います。僕自身も、そういった経験をたくさんしてきました。また、今までドリブルで指導してきた選手たちの中にも、同じような悩みを抱えている人がたくさんいました。

このように試合中に本来のパフォーマンスを発揮できない理由は、「身体の力み」と「心の力み」にあると言えます。そして、これらの力みをなくすためには「脱力」が必要です。では、どのようにして、「身体の脱力」と「心の脱力」を行えばよいのでしょうか?

人間の筋肉のメカニズム

まず1つ目の「身体の脱力」について、ご説明します。ドリブルを仕掛ける場面では、重いものを持ち上げるような力を使うのではなく、一瞬で相手を抜き去るようなスピードや瞬発力が必要になります。
人間の筋肉はゴムと同じで、ゆっくり伸びる動きからは、ゆっくり収縮する力しか生まれません。逆に、勢いよく伸ばすと、ちぎれるのを防ぐために急速に収縮する力が生まれます。この動きを「伸張反射」と言います。

「伸張反射」では脳の指令とは関係なく、無意識に筋肉が動くので、意識的に行動するよりも早く筋肉を動かすことができます。この伸張反射を起こすには、一瞬で筋肉に強い衝撃をかけることが必要です。瞬間的に強い衝撃が加わると、筋肉が一気に伸縮し、高い瞬発力で動くことができるのです。

実は、この伸張反射を走る動作やドリブルに意図的に使うことができるのです。人は走るとき、地面からの反発力(床反力)を利用して走っていますが、この床反力と伸張反射を組み合わせることで、得られる力はより大きくなり、最も強い力で走り出すことができます。このとき、もしも身体を脱力させずに、緊張してガチガチの状態で、地面をぐぅーっと長く押してしまうと、伸張反射が起きないので、高い効果は得られません。脱力の時間をできるだけ長くして、緊張の時間を少なくすることで、伸張反射が生じ、一瞬の瞬発力を出すことができるのです。

メッシやネイマールといった世界で活躍している選手は、「脱力する技術」を持っています。ここぞというときの「グンッ」と一気に加速するような瞬発力は、筋肉の力を抜いた状態から、一瞬でエネルギーを溜め込み、それを一気に解放することで生まれます。自分が持つ瞬発力をここぞというときに、最大限に出し切るために、意図的に身体の力を抜いているのです。

そして、もう一つ大切なのは、「心の脱力」です。身体的な脱力は、上半身や下半身の使い方をトレーニングすることによって身につけられるものですが、いくら身体的な脱力が完璧にできるようになっても、最後は「心の脱力」ができるかどうかが、パフォーマンスに大きく影響します。

なぜ、試合になると、「心の脱力」ができなくなるのでしょうか? 皆さんは、会社や学校で大勢の人の前で発表するときや、重要なプレゼンをするとき、必要以上に緊張してしまい、声が上ずったり、シドロモドロになってしまった経験はないでしょうか。これはサッカーでも同様で、「抜けないんじゃないだろうか」「自分より強い相手なのではないか」という不安な心理状態のときは、不必要に緊張したり力んでしまうものです。

心の脱力に必要なもの

僕はドリブルの指導をしながら日本全国を回っていたのですが、日本には素晴らしいドリブラーになる技術を持っている子はたくさんいて、世界的に見ても日本人のドリブル技術は高いことを再確認しました。でも同時に、その技術を表現できる選手が少ないなとも感じました。その理由は色々あると思いますが、ミスを許さない社会、個よりも組織の方が大事だという先入観といった、日本の社会構造が、人の表現力にまで影響しているのではないかと思っています。

では、日本の社会で育った僕たち全員が心の脱力をできないのかというと、もちろんそんなことはありません。大勢の人の前で発表する際に緊張してしまった場面を振り返ってみてください。どうしたら、シドロモドロにならずに済んだでしょうか? ある人は「場数を踏む必要がある」と言うかもしれません。また、ある人は「もっと準備をしておけばよかった」と思うかもしれません。

僕が心を脱力するために必要と考えているものはただ1つ、「自信」です。そして自信の根拠となるのは経験、実績、意識(イメージ)の3つです。「経験」とは、見たり聞いたり行なったりしながら、場数を踏み、自分の中に技能を蓄積することを指します。「実績」とは、自分が行なったことによって外から得た評価を指します。そして「イメージ」とは、自分の状態や周囲の状況を認識し頭の中に思い描くことを指します。

この3つの中で、経験や実績は過去の体験を元にしていますので、成功や失敗から学んだことを活かせば、自然と脱力ができるようになるかもしれません。でも、経験や実績はすぐに手に入るものではなく、時間をかけて少しづつ積み上げていくものです。

では、イメージはどうでしょうか。イメージはしっかり準備をすれば、経験や実績がなくても、誰にでも手に入るものなのです。なんとなく当たって砕けろではなく、このときこうなれば抜ける、という「根拠に基づいたイメージ=意識」があるかどうか。イメージは経験や実績によるものでもありますが、また理論によっても可能なのです。

ここまで読んでくださった皆さんの頭の中には、すでに「こうすれば抜けるんだ」というイメージができていますよね? つまりこの「99%抜けるドリブル理論」がディフェンスを抜くイメージを形成し、自信の源となるはずなんです。

僕は、自分のドリブル、そして自分のプレーに対して自信を持つことができなかった人たちに対して心の拠り所となるものを提供したいと思いながら指導を続けてきました。その想いの集大成が「99%抜けるドリブル理論」です。

どんなに強い相手が目の前にいても、この理論を身につけていれば、自信を持ってプレーできるようになり、心の脱力ができるのです。
何度も言いますが、一番大切なのはどんな環境であっても自分がやると決めたら、何としてもやろうとする気持ちを持つことです。試合で表現する自信と勇気を持ってチャレンジし続けていきましょう。

<第7回のまとめ>
・筋肉の緊張と弛緩のギャップが瞬発力を生む
・力は「ここぞ」というときに使おう
・自信を身にまとい、心を脱力しよう