第4回 顔認証技術大国・中国「プライバシーより治安」のワケ

中国トレンドマーケター直伝! 思わず話したくなる中国のリアル/ こうみく

第3回「爆買いから体験消費、投資へ。中国インバウンド最新事情」を読む
中国トレンドマーケターのこうみくさんが中国のリアルをお届けする本連載。日本企業にも大きな影響を与える中国経済の動向は、投資をする際にも参考になるはずです。第4回は、中国のAI最新技術についてお伝えしていきます。

中国のAI技術、とりわけ顔認証技術がすごい!

AI(人工知能)大国の中国。日本経済新聞がまとめたAI特許を取得した民間企業世界ランキングによれば、上位50社にランクインした企業が、中国は19社で、アメリカの12社を上回る結果となり、その勢いは世界一とも言えます。

また、AI技術の中でも、特に「顔認証技術」が群を抜いています。日本経済新聞によれば、「18年公開の特許出願は3万件を超え、5年前の約10倍に増えた。15年に米国を上回って首位となり、18年では米国の約2.5倍に達した」とのこと(2019年3月10日付日本経済新聞電子版より)。

では、なぜ中国でこんなにも顔認証技術が進んでいるのでしょうか。

AI技術発展の鍵は、国を挙げての“トライ&エラー”にある!

中国は「社会実験」をする勢いで、技術が完成したら一刻も早く市場に出して試します。日本は、倫理的な観点から、検証を重ねてから市場に出すケースが多いと思います。しかし中国は、「トライしてみて失敗したら修正すればいい」というスタンスなので、AI技術が発展するスピードが圧倒的に早いのです。

ではそんな「社会実験」が行われているケースをご紹介します。
皆さん、中国でのキャッシュレス決済といえば、QRコードを携帯で読み込んで決済する……というイメージをお持ちではないでしょうか? その認識は正しいのですが、現在、上海や北京の街中では、携帯電話すら不要な顔認証レジが、いたる所に増えているのです!

また、レジだけではなく、中国の山東省の済南地下鉄1号線では、2019年3月から顔認証の改札システムを実験導入し始めました。自動改札の3D顔認証設備を使うと、わずか2秒で改札を通過することができるというもの。今は、実験段階であるためまだ小さな都市でしかサービスをスタートしていませんが、今後技術がブラッシュアップされていくにつれ、間違いなくどんどん広がっていくと考えられます。

北京市内のスーパー。こちらのセルフレジでは、画面にカメラがついており、顔認証+携帯電話の確認で、決済が完了。 筆者撮影。

国による強力なサポートが追い風に

そして中国では、国も顔認証技術の開発を力強くサポートしています。その理由としては人口が多いがゆえ、治安を守るため、防犯分野での活用に期待しているからです。

2018年の時点で、中国国内には1億7000万台の監視カメラが設置してあり、その数は年々増え続けています。中国政府は2020年までにその数を3倍以上にすると公言! 中国の街にはいたる所に監視カメラがあります。街中では、銀行ATMにおける防犯、警察による逮捕活動などにおいて、大いに活用されています。

香港メディアのサウスチャイナ・モーニング・ポストによれば、中国広州のベンチャー企業ユニコーンが開発したAI顔認証技術は、中国警察当局で、過去4年間で1万件の犯罪者逮捕に活用されました。この企業は、広州市から約3億円の出資を受けており、行政とタッグを組んで、顔認証技術によって、街の治安を守ることに貢献しているのです。

2018年2月からは、中国警察当局が「スマートグラス」を導入。北京のLLVision Technologyが開発したスマートグラスは、わずか数秒で、眼鏡越しに写った人の顔を登録されたデータベースの人物情報と照合するもの。容疑者の顔をとらえた場合、警察当局のデータベースと照合されるようになっているのです。ただ、上海に住んでいた筆者は街中で見かけたことはありません。

このように国や行政による出資や大々的な活用によって、顔認証技術は、より多くのデータを取得し、発展し続けているのです。

個人情報を保護することよりも、治安が良い社会を望む中国人

こうした中国のAI事情を話すと、日本人の友人たちは大抵、「個人情報やプライバシーはどうなっているの!? 怖い……」と顔をしかめます。

しかし、上海で暮らしていると驚くほど治安が良いんです。壁に落書きもありません。全世界を見ても、格差が激しい大都市で、ここまで治安が良い場所は珍しいと思います。

上海交通大学MBAで、教授が話していたことが印象に残っています。

「個人情報やプライバシーが守られるが、治安が悪く、統制がしにくい社会。そして、個人情報を全て抜き取られるが、治安が良く、統治された社会。どちらに住みたいか」

この問いに対して、上海に暮らす学生たちはほぼ満場一致で、後者を選びました。「なぜ、西洋諸国があんなにも個人情報を保護するのかがわからない」といった声も多数上がりました。

実際に、中国の多くの大都市では、その経済規模や経済格差の割に、驚くほど治安が良いです。例えば、上海の街を歩いていると、大都市でよく遭遇するような壁へのペイントアートや違法駐車を見かけることは、まずありません。そんなことをしたら、直ぐにバレて、捕まってしまうからです。よって、極度に進んだ監視社会は、自分以外のすべての国民も監視されているということで、後ろめたい気持ちがない限り、非常に安心感を持って生活できる社会とも言えるのです。

その保護の在り方が問われる個人情報。人々が求める答えは、社会によっても変わってくるのかもしれませんね。

次回は、中国最新キャッシュレス事情についてお伝えします!

〈中国のAI最新情報〉
・市場でのトライ&エラーによって、AI技術発展のスピードが早い!
・治安を守るために、国を挙げて、顔認証技術を大活用中!
・監視社会では、すべての国民が等しく監視されているため、治安が保たれて逆に安心感がある