ROEで読み解く楽天

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部スタジヲ タケウマ

「ROEで読み解く富士フイルム」を読む
米中貿易問題の再燃により、再び荒れ始めた日本株式市場。まだまだ不安定な相場ですが、ROEやPERといった投資指標と、「この銘柄はどんな条件が揃えば株価が上がりそうか」を考えることで、むやみに不安な気持ちにならずに投資を続けることができます。

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

金融業はROEが高くなりやすい

一般的には、ROEが高い企業は、株主に対して利益還元姿勢が高く、株式市場でも評価されやすい傾向があります。しかし、銀行業や証券業などを手掛ける企業では、その預金などが負債として計算される分、自己資本比率が低くなり、ROEが結果として高くなるケースがあります。つまり、単純にROEが高いからといって安易に評価することができません。今回はそんな金融業を業務として実施しているケースをご紹介します。

case17:楽天

今回は、楽天市場や楽天カードなどでおなじみの「 楽天 」をご紹介します。同社は、インターネットサービス、フィンテック、モバイルの3事業から構成されています。また、「楽天エコシステム」と呼ばれる楽天の経済圏を共通のポイントなどによって拡大させることで、そのシナジーを最大限活用しているのが特徴です。

ROEが高いのは銀行・証券をやっているため

楽天の2018年度実績ROEは19.5%と、目安である8%と比べると非常に高い数値であることがわかります。利益率が飛び抜けて高いのかというと売上高営業利益率は15.5%とそこまで高くありません。ではROEを押し上げているのは何かというと、それは財務レバレッジです。

財務レバレッジとは、総資産に対する自己資本の割合です。

財務レバレッジ(倍)=総資産/自己資本

つまり、自己資本が多ければ、このレバレッジは低くなり、逆に自己資本が少ないとレバレッジが高くなります。同社の財務レバレッジは9.5倍(2018年度)となっており、自己資本の割合が小さいことがうかがえます。

楽天がなぜ財務レバレッジが高いかというと、銀行や証券など金融業を抱えているからです。証券業の金融負債や、銀行業の預金などは負債として計算されます。そのため、金融業を行なっていない会社と比べると、株主資本が相対的に小さく見えてしまう状況となっています。

2つの懸念点が株価を下押し!?

一方、業績面を見ると、2018年12月期まで2期連続で増収営業増益と好調でした。ただ、足元では将来の業績に対する不透明感と、株主還元の2点について懸念点があるため、株価の上値が重くなっているものと考えられます。

懸念①2019年秋以降のモバイル事業に対する不透明感

1つ目はモバイル事業の先行きが不透明な点です。楽天は2018年4月に総務大臣より携帯通信事業の認可を与えられ、2019年4月には次世代通信規格5Gの認可を得ました。

これにより、2019年秋から本格的にモバイル事業を開始するのですが、すでにNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIの3社がしのぎを削る中で、どこまでシェアを獲得できるのかが未知数となっています。最初は設備投資など、先行投資がかさむことも想定され、収益化がどのタイミングになるのかが予想しづらい状況と言えます。

こうしたことから、2018年に更新した最高益も、2019年には減益に転じることが見込まれ(東洋経済予想)、その後もいつ最高益を更新できるのか見通しづらい状況と言えます。今後の株価を考える上では、このモバイル事業の収益見通しがカギとなりそうです。

懸念②株主還元の物足りなさ

懸念の2つ目が株主還元、特に配当の少なさです。楽天は1株あたり年4.5円の配当を2018年12月期に実施しました。その結果、1株あたり利益のうちどれだけ配当に充てたかを表す配当性向は4.3%でした。東証に上場している企業の平均配当性向が約30%であることを考えると、相対的に低い水準であることがわかります。

今後の業績の不透明感に加え、こうした配当に対する魅力の低さが、株価低迷の要因の1つになっているのかもしれません。裏を返せば、少しでも配当政策が改善すれば、それをきっかけに株価が上昇に転じる可能性もありそうです。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①②③から楽天を見てきました。増収が続いている楽天ですが、目先は新しく始まるモバイル事業に対する先行き不透明感などが株価の重しになっているようです。こうした新規事業が、既存の強みである「楽天エコシステム」との相乗効果を生み出せるようになれば、再び株価も上昇基調を取り戻すかもしれませんね。今後の配当政策とモバイル事業の行方を継続的にウォッチしてみてはいかがでしょうか。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。