第2回「結局のところ、税金をいくら払ってる」のか、聞いてみた(所得税編) 

元国税局職員に聞く! 合法・節税マニュアル/ さんきゅう倉田日興フロッギー編集部

第1回「『税金って払わないといけないの?』実は分かっていない税金について、聞いてみた」を読む
前回、なぜ税金を納めなきゃいけないのかを教えてもらいました。ところで、みなさん、ご自身が1年間に納めている税額を把握できていますか? サラリーマンの場合は「天引きされるため所得税がいくらかかったのか、住民税はいくらなのか、無自覚……」という方も少なくないのでは? 果たして自分がどれだけ税を負担をしているのか計算することはできるのかーーさんきゅう倉田さんに、教えてもらいましょう!

<まとめ>
・給与収入ー経費(控除)=給与所得
・給与所得に所得税率をかけたものが、所得税額
・所得税は、収入の高い人ほど負担が大きい(累進課税)
・控除を使うと、税金が安くなる
・サラリーマンに認められている経費がある
・2020年から手取り金額が減る(人も)!

<登場人物>


さんきゅう倉田さん
よしもと所属の芸人。元国税局職員。


S子
フロッギー編集部員。フリーランスで青色申告4期目。節税に情熱を注ぐ。


C江
元経理。配偶者の扶養範囲内で働く、ちゃっかり屋。

納税額ってどうやって決まるの?

S子

前回、国の運営費なので税金を納めないといけない、ということがわかりました! ところで、払わなきゃいけない税金の額ってどうやって決まるんですか?

倉田さん

サラリーマンの場合、毎月のお給料から天引きされている税金は「所得税」と「住民税」です。なので、まずは、働いている皆さんに大きく関わる所得税についてお話ししますね。

倉田さん

突然ですが、前回冒頭で「知らなかった」と言っていたS子さんに、ここで問題です。

Q.「所得税」は「国税」?
それとも「地方税」?

S子

「住民税」は市役所で払えたから「市税」で、「地方税」ってことだから……所得税は「国税」で合ってますか。

倉田さん

正解です。

S子

(ちょっと嬉しい)

C江

先生! 夫が勤務先からもらった源泉徴収票を持ってきたんですが……(ごそごそ)

倉田さん

C江さん、源泉徴収票には支払った所得税額が記載されているんですよ。ご存知ですか。

C江

えっ、どこですか? 所得税なんて言葉どこにも書いてないですけど。

倉田さん

この緑で塗った「源泉徴収税額」というのが、1年間に支払った所得税の金額になります。

カエル先生の一言

サラリーマンは毎月の給与を受け取る際に、あらかじめ所得税が差し引かれています(=源泉徴収)。年末に行う「年末調整」で払いすぎた分や不足分が精算されます。

C江

あら、結構支払ってる。私のパート代ではここ0円なのに。

倉田さん

所得税は、収入の低い人と高い人では、掛ける税率が異なります。収入の多い人と少ない人とでは、払える税金の金額が異なりますからね。これを累進税率といいます。下記に具体例を載せますね。

S子

うぐっ、稼げば稼ぐほど取られるッ。

C江

MAXの45%って、そーとーエグいですね。

倉田さん

そうですね。現状ではわずか5%の高所得者が、所得税のおよそ半分を負担しているんですよ。

S子

ええーーー、こんな負担構造になっているんですね。世の中の秘密を知ってしまった気がする……。

倉田さん

この図を見ると、たくさん稼いでいっぱい納税してくれた高所得者へ、感謝する気になりませんか。

家族の人数が多ければ納税額がDOWN?

倉田さん

さて、所得税は、大まかに以下の流れで算出できます。

・年収ー経費(会社員の場合、給与所得控除)=所得金額
・所得ー控除(基礎控除、社会保険料控除、扶養控除など)=課税所得金額
・課税所得の額×「所得に応じた税率」=支払う所得税の額

倉田さん

支払わなければならない所得税を確定する前に、まず「課税所得」金額という、税を課すためのモトとなる所得を計算する必要があります。

S子

か、課税所得???

倉田さん

聞きなれないかもしれませんが「所得」とは、収入(年収)から経費を引いた金額です。所得は利子所得や事業所得、給与所得、一時所得など10種類あります。それぞれの収入を得るために、必要となった経費を引いたものが、「所得」です。

倉田さん

例えば、八百屋さんが野菜を買ったお客さんから受け取った金額が「収入」にあたります。野菜を市場から仕入れた額や、仕入れに行くために使ったガソリン代などは「経費」とイメージするとわかりやすいかもしれません。そして、「収入」から「経費」を引いた額=「所得金額」です。

C江

一度まとめます。
収入(八百屋さんの売上)ー経費(仕入れやガソリン代)=所得金額、ですね!

倉田さん

さらに、その八百屋の店主には、奥さんとお子さん、同居の親などがいたとします。家族がたくさんいれば、生活をしていくうえで必要になるお金は多くなりますから、税金をたくさん支払うのは厳しい。だから、個々の状況を考慮して、税金を計算するときに使う「所得金額」から「引いてもいいですよ」と認められているものがあるんです。

S子

ちょっと待って! 「引いてもいいよ」と認められているお金がある?!?!?

所得から「引いてもOK」な控除って?

倉田さん

はい。「所得から差し引くことができるお金」を控除といい、「~~控除」と呼ばれています。

倉田さん

所得控除として認められるものには14種類あります。諸条件あるものもありますが、代表的なものはザックリと以下の通りです。

●基礎控除:誰でも無条件で38万円差し引くことができる(※2020年より48万円に引き上げられる。ただし所得額が2400万円を超えると段階的に減らされ、2500万円以上には適用されなくなる)
●配偶者控除:配偶者がいれば38万円差し引くことができる(※諸条件あり)
●扶養控除:子どもなど16歳以上の扶養家族1人につき38万円差し引くことができる
●社会保険料控除:年金や健康保険を支払ったときに受けられる
●生命保険料控除:生命保険料を支払ったときに受けられる
●医療費控除:年間で10万円超の医療費を支払ったときに受けられる
●寄付金控除:寄付した金額が控除できる。「ふるさと納税」もここに該当

倉田さん

こうした控除できる金額を引いていくと、税金を計算するために使われる「課税所得金額」が決まります。控除できるものがあればあるほど、税金のかかる元の金額を小さくすることができるんですよ。

S子

……それって、課税所得が小さくなると、所得税額が下がるってこと?

倉田さん

その通り!

C江

控除、ありがたいね!

サラリーマンの強い味方「給与所得控除」

倉田さん

ここまで、自営業者である八百屋さんが使える「経費」や「控除」について見てきました。一方、給与所得をもらっているサラリーマンには「経費」がないかわりに、「給与所得控除」という控除が存在するんですよ。

S子

給与所得控除……また耳慣れない言葉が出てきた。

倉田さん

給与所得控除というのは、会社員の経費です。仕事をしていると、スーツやカバンが必要で購入しますが、これらは会社に経費として、認めてもらえませんよね。業種によっては会社に経費請求できない交際費もあるかもしれません。それらをなんとなくまるめて、「経費」として認めてくれるのが、給与所得控除です。

倉田さん

どんなに少なくても65万円。最大220万円まで控除されます。こちらも収入金額によって、控除の金額が異なります。具体的な金額は以下の通り。

S子

あのーー、十数年ほど会社勤めの経験があるのですが、私これまで「給与所得控除」を申告した記憶がありません。ということは、自動的に控除されてた、ってことですか?

C江

”自動的に”じゃないよ。元経理の立場から言わせて!
サラリーマン一人一人が計算するのは手間がかかるから、会社が代わりに計算して申告してくれてる、ということですよね?

倉田さん

はい、そうです。

S子

もらっていた給料に深く関わっている控除だってのに、いままで全く知らなかった……。これって常識として知っておくべき知識なんじゃないの……。
……ねぇ……私以外はみんな知ってる話ってわけではないよね?

倉田さん

僕としては、社会人の常識となってほしいです。
そして、この給与所得控除ですが、実は2020年分から少し変更があります。

カエル先生の一言

実は、給与所得控除は年収の上限額がジリジリと下がってきています。
2012年までは上限なし
2013年~1500万円
2016年~1200万円
2017年~1000万円
2020年~850万円

カエル先生の一言

給与所得控除額も
2012年まで収入金額×5%+170万円
2013年~上限245万円
2016年~上限230万円
2017年~上限220万円
2020年~上限195万円。つまり、知らないうちに高所得者ほど税負担がUPしているのです。

倉田さん

ただし、介護世帯や子育て世帯は、改正後も税負担が変わらないよう調整されるんですよ。

S子

なんか、いろんな調整があったりで、かえってわかりにくくなってるような……。

S子

しっかし、2020年以降は、年収850万円以上の人の場合、どんなに稼いだとしても控除額は195万円で打ち止めなのか! 稼いでるみなさま、よく怒らずにいるもんだねぇぇぇ。

C江

これも結局、天引きされて「無自覚」だから……なのかもね。

S子

“無自覚”オソロシイ……。しかし、こうなると高収入の人ほど増税になってしまうってことだよね? 老婆心ながら、手取りがこれ以上減ってしまわないように、できる節税はやらないとマズイんじゃないの……?

サラリーマンなら所得税の知識があればOK!

C江

えーっと、まとめます。
年収はもらった金額。所得は経費を引いたもので、所得からさらに控除の金額をひいて、税金の計算をするための金額を出す、と。

倉田さん

はい、間違いありません。さきほどの源泉徴収票でいうと、「支払金額」から「給与所得控除の金額」と「所得控除の額の合計額」を引いた金額が「課税所得」の金額になります。

倉田さん

今回「所得税」を算出する方法を説明しました。住民税は同じような考え方で計算して税額を出しますが、基本一律10%です。他にも、法人税や相続税・贈与税についてもありますが、一般的な会社員であれば、所得税の知識があれば、問題ないでしょう。

S子

自分がどれだけ税負担しているのか知っておきたいし、使える控除があるかもしれないんだから、サラリーマンも自営業者も、みんな税について知っておいた方がいいと思った。知らないと対策も立てられないもんね。

C江

「控除」ってとっつきにくい言葉だけど、「節税」につながる強い味方! 知らずに損したり、知っていれば得するならば、きちんと知っておきたいです。

倉田さん

税金へ興味が湧いてきたようで、嬉しいです。次回は、その他の「控除」についても詳しく見ていきましょう!

<倉田さんからのワンポイント>
控除を使うと、所得税額を小さくすることができる