ROEで読み解く富士フイルム

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部スタジヲ タケウマ

「ROEで読み解くNTT」を読む
決算発表シーズンもそろそろ終盤。個別の決算が良くても、指数全体が下がってしまうことで、割安に放置されている会社もあります。マーケット全体の動きに惑わされずに、ROEやPER、個別企業業績を通して、気になる銘柄をチェックしてみましょう。

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

四半期決算は進捗率に注目

ROEに改善傾向が見られたり、株主還元に対して積極的な経営姿勢があると、中長期的には株価は評価される傾向があります。しかし、四半期ごとの決算、とくに会社予想に対する業績の進捗率が芳しくない場面では、短期的に株価が下落してしまうこともあります。今回はそうした、四半期業績の進捗率低迷が株価にマイナスに働くケースをご紹介します。

case16:富士フイルム

今回は、インスタントカメラ「チェキ」や化粧品「アスタリフト」を手掛ける「 富士フイルムホールディングス 」をご紹介します。かつてはカメラ事業が主力でしたが、いまでは営業利益のうち約4割をヘルスケア&マテリアルズ ソリューション事業が占めており、医療システムや医薬品などの分野が稼ぎ頭となっています。

ROE水準低いが、改善傾向

ROEは2019年3月期に6.7%、2020年3月期の予想で7.8%と決して高いとは言えません。ただ、2013年度まで2%〜3%台が続いていたことから比べると大きく改善しています。中期経営計画の中でROE目標を掲げ、配当金も9期連続で増配を実施し、2020年3月期も増配を予定するなど、株主還元を重視する姿勢が伺えます。

2019年3月期に営業最高益を更新し、業績に勢いが出始めたかに見える同社ですが、足元ではやや雲行きが怪しい状況となってきました。株価は一時、上場来高値の5710円に迫る場面がありましたが、8月に入ってから株価は下落。8月9日時点で、年初来安値(4201円)も視野に入りつつあります。これには主に2つの要因が考えられます。

株価下落の要因①トランプ大統領による対中関税第4弾

1つ目は米国のトランプ大統領がほぼすべての中国製品に追加関税を課す「対中制裁第4弾」を9月1日(日)に発動すると表明したことです(一部は12月に延期)。

富士フイルムのインスタントカメラ「チェキ」は、2018年度に世界中で1002万台も販売されており、縮小するカメラ市場の中でも異彩を放つ存在となっています。そんな人気のチェキですが、じつは主に中国で生産されており、今回の対中制裁第4弾に含まれる可能性が出てきました。フィリピンへの生産移管を始めているとのことですが、9月以降の生産に不透明感が漂い、業績悪化懸念が株価を押し下げた一因となりました。

株価下落の要因②進捗率の低さ

2つ目は 業績の進捗率の低さに対する投資家の失望です。
2019年8月8日に発表された2020年3月期第1四半期決算は、売上高が前年同期比5.2%減の5353億円、営業利益は同0.7%増の371億円でした。ヘルスケア部門の収益性が改善したことやプリンタ事業の構造改革の効果などが、営業利益を押し上げましたが、初級者向けのミラーレスカメラが販売不調だったことなどから売上は減少しました。

このように営業利益は増えているものの、2020年3月期の会社計画(2400億円)に対する進捗率は約15.5%と、3期ぶりの低さとなりました。会社計画が最高営業益(2098億円)をさらに上回るものであったことに対して投資家の期待が高まっていただけに、第1四半期決算の内容は期待外れと受け止められたようです。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①③から富士フイルムを見てきました。営業最高益を記録し、高値に近付いていた同社の株価。しかし、販売好調なチェキがトランプ大統領による対中関税の影響を受けそうな点と、第1四半期の業績進捗率が悪く、投資家の期待が裏切られたことなどから株価は下落しています。プリンタ事業の構造改革効果や医療分野の売上拡大などによりこれら懸念を払しょくできるかに今後は注目が集まりそうです。また営業利益の最高益更新が視野に入れば、株価は再び高値を目指すかもしれませんね。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。