中国トレンドマーケター・こうみくが中国の経済最新事情をお届けする本連載。日本企業にも大きな影響を与える中国経済の動向は、投資をする際にも参考になるはずです。第2回は、第1回に引き続き、中国で活躍する日本企業の事例をご紹介しながら、その特徴を紐解いていきます。
お菓子の世界で巻き起こる“BAKE旋風”
今回ご紹介するのは、焼きたてチーズタルト専門店「BAKE CHEESE TART」やシュークリーム専門店「クロッカンシューザクザク」などを展開し、各地に行列を生み出しているBAKEです。
未上場のスタートアップでありながら、近年、中国においてもめざましい成長を遂げています。2016年6月に1号店を出店以降、上海市などの沿岸部から四川省・成都市など内陸部まで店舗網を拡大し、中国に“BAKE旋風”を巻き起こしています。
お菓子というフィールドで、中国で日本のブランドが勝つのは到底難しいとされるなか、BAKEはどんな施策でハードルを越えてきたのでしょうか。
成功の理由①パクるモグラが出る前に穴を塞ぐ
中国出店の難しさは、なんといっても、凄まじいスピードで模倣品が出回ってしまうことです。日本人の一般的な考え方として、世界観やアイデアは「最初にスタートしたものがオリジナルで本物だ」という価値観があります。一方で、中国は、「たとえ後追いでも、最終的に市場で勝ったものが本物」という価値観、更に「法で罰せられる範囲を超えない限り、真似することは、別に悪ではない」という考えを持っています。
よって、BAKEがチーズタルトで初の中国進出を果たした際も、オープンからたった半年で、似たようなチーズタルト屋が周辺地域に69店舗も開店しました。しかも、パッケージや内装のデザインも味もそっくりで、価格は3分の1。なかなか苦戦を強いられることとなりました。
そこで、BAKEは、戦略を練って「クロッカンシューザクザク」で中国へ再進出。大きな成功を遂げ、リベンジを果たします。
勝因はまず、模倣品が出てくることを前提に、先回りして動いたこと。
具体的には、競争が最も激しい上海・北京といった都心を一旦は避け、日系ブランドがなかなか先陣を切って入り込まない南京、アモイといった地方都市から攻め入りました。かつ、地域一のショッピングモールの顔となる区画等、各都市の一等地に最初の店舗を出店します。
地区のブランドになるような一等地に店を構えることで、ディベロッパーとのつながりを深め、近隣店舗の開店情報を入手。ディベロッパーに圧力をかけることで、模倣店の大量発生を事前に押さえることができました。
成功の理由②“お菓子”だけではなく、ファッションブランドのように“アイデンティティ”を売る
中国は日本以上に流行の移り変わりが激しく、飲食ブランドにおける平均寿命は508日と言われています(中国版ぐるなび「美团」が発表したレポート:中国餐饮报告2018より)。
そうした中、BAKEは、いわゆる飲食ブランドとして“お菓子”をブランディングをするだけでなく、アパレルブランドのような感覚で、自社の“アイデンティティ”を売る企業としてのブランディングを徹底しました。つまり、「飲食ブランド」の常識を超えていくことで、その変化の激しさに対応したのです。
たとえば、店舗もアパレルショップと同じように、季節ごとに内装を一新。一般的なお菓子ブランドは季節限定商品をはじめ新商品が出た際には、POPやポスターを張り替える程度だと思いますが、BAKEは違います。自社専属のデザイナーが、コンセプト、テーマカラー、ストーリーをつくり込んで展開するのです。
<通常時の店舗デザインと商品パッケージ>
<ハロウイン期間の店舗デザインと商品パッケージ>
アイデアや世界観は真似されるという覚悟のもと、高いデザイン性を駆使して、ライバルが追いつけないクオリティとスピードで、どんどんトレンドを生み出してお客さんを楽しませ続ける。そして、ブランドの背景にあるコンセプトを持って、お客さんにブランド自体のファンになってもらい、リピートしてもらう。このような、中国の市場、中国の顧客に、とことん向き合った戦略が、BAKEの成功の鍵と言えるでしょう。
今回は、中国で急成長を遂げている日本企業として、BAKEをご紹介しました。中国独自の考え方や文化に寄り添いながら、日本とは違った戦略を構築することで成功していることがわかりますね。
次回はインバウンド最新情報についてお伝えいたします。お楽しみに!
・真似されやすいといった中国ビジネスの特性を織り込んだ事業設計をすべし
・商品そのものではなく、企業の“アイデンティティ”を売ってブランディングを徹底せよ