「ROEで読み解くキッコーマン」を読む
4〜6月決算発表のピークを迎えつつある株式市場。決算発表では、通期の会社予想に対する業績の進捗度合いに注目が集まります。そんな進捗度とともにROEやPERをチェックして、投資の是非を判断しましょう。
ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)
case15:NTT
今回は、インターネット光回線から携帯電話まで通信に関するあらゆることを手掛ける「 NTT 」をご紹介します。同社の収益の柱は、傘下の「 NTTドコモ 」を中心とした「移動通信事業」で、営業利益の約6割を占めています。そのほかにもシステム開発の「 NTTデータ 」や、長距離・国際通信のNTTコミュニケーションズを傘下に置き、IT社会の基盤を作り続けています。
ROEは競合より低いが、株主還元に積極的
一般的に、ROEは会社の利益効率を表すとともに、株主へどれだけ利益を還元してるかを示す指標の1つでもあります。同社のROEは2019年3月期で9.3%で、競合と比べると、それほど高い水準ではありません。これは売上高に対する利益が同業他社と比べて低いことが要因の1つとなっています。しかし、だからと言って株主への利益還元の意識が低いかというと、そうではありません。NTTは8期連続増配を実施しており、株主への還元をむしろ積極的に行っています。また、民営化の際に制定されたNTT法などを背景に、1999年度以降約4兆円規模の自社株買いを実施中であり、資本の効率化を進めています。
ドコモの営業減益がNTTグループ全体に影響
ただ、このように株主還元策へ積極的であるにもかかわらず、株価は横ばい推移が続いています。この背景には、今後収益を大きく押し上げるような事業が見当たらないことに加え、足元では主力事業であるNTTドコモが収益性の悪化を伴う新料金プランを発表したことで、2019年度は営業減益が予想されていることなどが挙げられます。営業利益で約6割を占めるNTTドコモの業績がNTT本体の業績に直結している様子がうかがえます。
海外事業に活路求める動き
こうした国内業績に足踏み感がある中、同社は海外事業を再編し、海外の収益を拡大させようとしています。2019年7月1日には、ロンドンに海外事業を束ねる拠点を開設。デジタル化とグローバル化の両面で顧客のニーズを捉えるべく、グループ内を再編するとともに、2023年度には海外売上高250億ドル、海外営業利益17.5億ドルを目指しています。
ただ、現時点ではまだ海外事業は小さいため、NTTドコモの営業減益をカバーできる状況にはありません。今後は、どの程度海外事業がスピード感を持って成長するか、また、コスト削減などで国内の通信事業をスリム化できるかに注目が集まるのではないでしょうか。
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①②からNTTを見てきました。 株主還元に積極的な姿勢を見せるも、NTTドコモの業績悪化懸念に足を引っ張られている同社。株主還元を維持しつつ、いかに海外事業を拡大し、柱の1つに成長させることができるかが、今後の注目点と言えそうです。