ROEで読み解くキッコーマン

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部スタジヲ タケウマ

「ROEで読み解くセイコーエプソン」を読む
米国における利下げ観測を背景に、円高進行懸念からなかなか上昇しづらい状況になっている日本株。ただ、個別で見れば、こんな状況でも高値を更新している企業もあります。上昇する可能性がある個別銘柄なのかどうかを見極めるためにも、ROEやPER、企業業績をしっかり確認して投資に臨みましょう。

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

ROEは3つの要素に分解できる

ROEが上がったり下がったりする要因は、3つの指標(売上高当期利益率、総資産回転率、財務レバレッジ)にわけて考えることができます。この視点を持っていれば個別企業のROEの特徴や、経営陣の方針を考えるうえで、参考とすることができます。ROEとともに覚えておいて、銘柄選別のヒントにしてみてください。

ROE=当期純利益/自己資本
=(当期純利益/売上高)×(売上高/総資産)×(総資産/自己資本)
=売上高利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

case14:キッコーマン

今回は、お醤油や豆乳飲料などでおなじみの「 キッコーマン 」をご紹介します。1917年の会社設立以来、キッコーマンのしょうゆは日本だけでなく、100ヵ国以上に出荷され、世界中の人に愛されています。いまではしょうゆだけでなく、和風総菜の素、デルモンテトマト商品、マンジョウ 本みりんなど幅広い商品を展開しています。

7期連続で最高益更新中!

そんなキッコーマンの業績は好調が続いています。2019年3月期まで7期連続で純利益は過去最高益を更新。特にここ最近では、海外での売上がけん引役となっており、売上高ベースで約6割、営業利益ベースでは7割に達しようとしています。

「しょうゆは肉に合う」で海外売上伸ばす

海外への本格進出は1957年にサンフランシスコに販売会社を設立したのが始まりです。その頃から、しょうゆの単品売りではなく、「しょうゆは肉に合う(デリシャス・オン・ミート)」というメッセージを明確に打ち出し、レシピとともに消費者に伝えたことが普及につながりました。その後も、肉とよく合う「テリヤキソース」の開発や、経営の現地化などを進めたことが、キッコーマンの海外売上を押し上げてきました。

直近では、製品の値上げが浸透せず、北米の売上が不調でしたが、2019年に入ってからようやく小売店や消費者に受け入れられ、売上も回復。国内市場の縮小がリスクとして意識される中、今後も海外を中心にさらなる売上拡大に期待が膨らみます。

ROEは利益率改善で10%台に

同社のROEは2018年度実績ベースで10.1%、2019年度予想ベースで10.4%と2ケタ台に乗せてきています。ROEは売上高当期利益率、総資産回転率、財務レバレッジの3つの分解することができますが、そのうちの売上高当期利益率と総資産回転率の上昇により、ROEが右肩上がりになっていることがうかがえます。

ROE=売上高当期利益率×総資産回転率×財務レバレッジ

資産の有効活用にグループ全体で取り組む

売上高利益率は、主に商品の値上げやコストの削減を行うことで伸ばすことができます。同社の場合、しょうゆの値上げや、高付加価値商品など単価が高めの商品を投入することで伸ばしているとみられます。また、総資産回転率は同社グループ内においてKPI(重要業績評価指標)の1つとして定められており、資産の効率化を会社全体で取り組むことで、改善していると考えられます。2018年春に発表された中期経営計画でもROE目標が掲げられていることから、経営としても資産の効率化や株主への利益還元などを重視していることが読み取れます。

中計達成に向けた施策に注目!

ただ、中期経営計画の業績目標(2020年度目標:売上高5000億円、営業利益450億円)と、2018年度実績(売上高4535億円、営業利益384億円)とでは、まだかい離があります。昨年以降の株価低迷の背景の1つに、こうした中計達成に対する不透明感があるのかもしれません。ROEの目標(10%以上)については達成しているものの、今後どのような施策でこの目標を目指していくのかが、今後の注目点となるのではないでしょうか。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①からキッコーマンを見てきました。海外事業が好調であることなどから最高益を更新している同社。ただ、それでもまだ中期経営計画とはかい離があり、中計達成に向けた不透明感が株価低迷の理由の1つになっているようです。引き続きROEの改善や海外事業の拡大なども注目しつつ、業績アップにつながる具体的な施策などをチェックしていきたいですね。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。