PERで読み解くキリンHD

月曜日はPERをトコトン!/ 日興フロッギー編集部トツカケイスケ

NYダウが高値を更新する中、なかなか高値までが遠い日経平均株価。そんな中、内需好業績銘柄を中心に高値を更新している銘柄もあります。しっかりとPERや個別企業の業績見通しを把握することで、まだまだこれから上がりそうな銘柄を掘り出すことができるかもしれません。

PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。

PER=株価÷1株あたり利益(EPS)
(もしくは、時価総額÷当期純利益)

税制変更で業績に不透明感?

2019年10月に予定されている消費増税。消費者が節約志向を高めることが予想されており、消費関連企業の業績は見通しづらい状況にあります。さらに、2020年には酒税改正が行われる予定となっており、関連企業の業績不透明感が漂っています。今回はそんな2度にわたる税制の変更の影響で株価が低下しているケースをご紹介します。

case32:キリンHD

今回ご紹介するのは、午後の紅茶やキリンビールなどでおなじみの「 キリンHD 」です。傘下にはキリンビール、ワインのメルシャン、飲料のキリンビバレッジ、協和発酵キリンなどがあり、食と医療に関する幅広い事業を手掛けています。

予想PERが高いのは、一時的な評価損の影響

株価は2018年春までは上昇トレンドにありましたが、それ以降は下落が続いています。また、PERをみると、実績ベースでは12.6倍(2018年12月期)と割安感の感じられる水準である一方で、予想PER(2019年12月期)は32.9倍と倍以上に上昇しています。

この主な背景としては、2019年12月期第1四半期に、子会社の豪ライオン社が持つ飲料事業売却にともなう一時的な評価損(571億円)を計上したことが挙げられます。2019年12月期の会社予想当期利益(親会社の所有者に帰属する当期利益)は、2月時点では1200億円であったのが、その後629億円に修正されました。この影響から、予想PERが見た目上は割高感のある(業種平均を上回る)水準に上昇しているものと考えられます。

「本麒麟」の販売好調!

今期はいったん利益が減ってしまう同社ですが、主力であるビール販売は好調です。特に2018年3月に発売した「本麒麟」が販売開始から約10ヵ月で1000万ケース(1ケースは大びん20本換算)を突破し、過去10年の新商品で最速ペースになったとのこと。「本麒麟」は新ジャンルに相当するため価格は安く、かつ「力強いコクと飲みごたえ」を追求したことで、幅広い層から支持を得られているようです。2019年10月には消費増税も控えていることから、ますます「安くておいしい」新ジャンルの人気が高まるかもしれません。

今後の注目点:2020年10月の酒税改正

キリンHDを含めたビール会社の今後を見通すうえで欠かせないイベントが2020年以降の酒税改正です。現状ではビールの酒税が高く、発泡酒、新ジャンルと酒税がだんだん下がっていきます。それを2026年10月にすべて同じ酒税にするため、2020年10月、2023年10月に段階的に酒税を改正していく予定となっています。

高単価のビールへ回帰するか注目

これにより、ビールの値段はだんだん安くなり、「本麒麟」のような新ジャンルの値段は上がることになります。そこで、消費者がビールにまた戻るのか、それとも、値段が安い新ジャンルなどにとどまるのかが注目ポイントとなります。少しでも単価の高いビールに回帰する動きが出てくれば、主力である一番搾りなどのビール商品が収益の押し上げに寄与し、PERや株価も上昇するきっかけになるのではないでしょうか。

税制改正そのものが心理的下押し要因か

一方、投資家の心理からとらえれば、2019年10月の消費増税と2010年10月の酒税改正そのものが、業績見通しに不透明感をもたらし、株価を押し下げているとも考えられます。今後は、消費増税と酒税改正のビッグイベントを通過するごとに少しずつPERや株価が切りあがっていくことも考えておいたほうが良いかもしれません。

<PERの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①③からキリンHDを見てきました。足元では評価損の計上による減益で利益が落ち込んでいる同社。しかし、主力のビール事業で「本麒麟」が好調なことや、2020年の酒税改正で高単価のビール販売が伸びる可能性もあることから、販売状況次第では株価が底打ちするかもしれません。今後の「本麒麟」の販売実績や、酒税改正に向けた販売計画などに注目してみてはいかがでしょうか。

本記事は、PERを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。