ROEで読み解くセイコーエプソン

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部スタジヲ タケウマ

「ROEで読み解くセコム」を読む
米中首脳が通商協議を再開することで合意し、貿易戦争の悪化が食い止められたことにひとまず安堵感を見せた株式市場。しばらくは株価が上昇しそうですが、その後を見極めるためにはROEや個別業績をチェックして、2019年後半の投資戦略の参考にしてみましょう。

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)

自社製品の強みvs外部環境の悪化

業界において優れた性能や特徴のある製品を持っていても、それを活かせる事業環境であるかどうかによって、業績は大きく左右されます。特に政治要因によって景気が左右されている今のような状況下では、以前立てた事業計画通りにいかない場合があります。そこで今回は、従来の中期経営計画通りに収益を稼ぐことができるかどうか岐路に立っているケースをご紹介します。

case13:セイコーエプソン

今回は、「世の中になくてはならない会社」になる、がモットーのインクジェットプリンタ製造・販売大手の「 セイコーエプソン 」を取り上げます。同社の主力は売上の66%を占めるインクジェットプリンタの事業です。その事業を支える「マイクロピエゾ技術」は、小型ながら高速・高画質な印刷を実現できる特徴を持ち、大きな強みとなっています。

大容量インクタンク好調も、足元は失速?

そんなセイコーエプソンが近年力を入れているのが、2010年から同業他社に先んじて発売した大容量のインクタンクシステムです。印刷のニーズが高い新興国を中心に、「インクを替える手間が少なくなった」と高い評価を受け、大きく販売を伸ばしています。

しかし、2018年度下半期には中国での景気減速や、競争激化などからやや業績に陰りが見えました。2019年3月期決算では、プリンティングソリューションズ事業(インクジェットプリンタが主力の事業)の売上収益が7236億円と、前年度に比べて130億円の減収となりました。

中期経営計画に沿った収益が達成できるかに注目

2025年度に向けた長期ビジョンである「Epson 25」の第2期中期経営計画では、2021年度の目標を売上収益1兆2000億円、事業利益960億円、ROE10%以上としています。ただ、印刷業界におけるデジタル化の急速な進展や、新興国を中心とした不確実性の増大などから、ハードルは以前よりも高くなってきているように見受けられます。このため、マーケットではその実現性に不透明感があるのではという懸念から、予想ROEも低下しており、株価の上値も重くなっている様子が伺えます。

同社の強みである大容量インクモデルをいかにして計画通りに普及させ、ユーザーの声に応えていくかが今後の注目点と言えそうです。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①からセイコーエプソンを見てきました。独自の技術や大容量インクタンクが大きな強みとなっている同社。しかし、外部環境の変化等により当初の計画通りに収益が上がっていないようです。ROEも低下する予想になっており、今後どうやってその優位性をうまく推進力に変えていけるかに注目が集まりそうです。

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本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。