「PERで読み解くキヤノン」を読む
日経平均株価などの株価指数と、個別銘柄の株価トレンドは必ずしも一致しません。株価指数の上げ下げに惑わされずに、PERと企業業績を見極めて、腰を据えて投資戦略を考えていきましょう!
PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
計画の実行力を見極める局面
どんな企業でも、既存の事業を見直して取捨選択する際には、決断力と実行力が物を言います。特に製造業では、工場などの資本が巨大であることもあり、簡単に既存事業を集約できるわけではありません。しかし、その事業で利益が見通しづらくなっていたり、業績の下押し要因になっているならば、早めの対処が肝要です。今回は、そんな事業の取捨選択がマーケットから求められているケースをご紹介します。
case30:味の素
今回ご紹介するのは、うま味調味料「味の素」や、ほんだし、カップスープ「クノール」などでおなじみの「 味の素 」です。1908年に「日本人の栄養状態を改善したい」という池田菊苗博士の想いから生まれた「うま味」を、調味料「味の素」として商品化したのが事業の始まりです。調味料「味の素」は、いまや世界130ヵ国以上で販売されており、世界の台所を支える企業の1つと言えます。
株価下落は「不安」の表れ?
予想PER(東洋経済予想)は20.2倍と業種平均を上回っており、決して低い水準ではありませんが、株価はいま下落基調にあります。過度な悲観状況にはないものの、投資家が同社の業績見通しに自信を持てずにいる状況が読み取れます。
この背景としては2つの要因が考えられます。
1つ目は、国内における冷凍食品事業とコーヒー類事業の不振です。国内の冷凍食品マーケットは緩やかな拡大傾向にありますが、競争激化などにより同社の冷凍食品事業はやや頭打ち感が見られます。また、コーヒー類事業については、スティックタイプで安売り競争が激しく、利益率が悪化している模様。いずれもライバルとの競争激化により、売上や利益が頭打ち傾向にあるようです。
実行力が試される「改革プラン」
2つ目は、いま着手中の「改革プラン」の不透明感です。成長の柱であるべき海外事業が2018年度に失速したことなどから、同社ではコスト削減や集中投資などの「改革プラン」を策定しています。収益性が悪く市場成長も見込めない事業は、縮小・撤退を進めるとのこと。
2019年5月10日の決算発表会の際には、調味料やアジアの冷凍食品事業など成長率や利益効率が比較的高い6つの事業に重点投資することが発表されました。ただ、実際に事業再編が行われ、業績として表面化するのは2020年度以降になる見込みです。こうした不透明感が投資家心理を冷やしているのではないでしょうか。
ただ、逆に言えば今後はこの改革プランが1つ1つ実現されるフェーズとも言えます。同社が投資家の期待に応えらえるような改革を実行でき、業績の回復が見通せるようになれば、PERも上昇し、株価も底打ちするかもしれません。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①③から味の素を見てきました。いまは国内事業の不振や、不透明な「改革プラン」によって、株価が下落基調にある同社。しかし、重点事業への集中投資や、コスト削減が少しずつ現実化すれば、将来の業績に対する不安も和らいでいく可能性があります。今後の改革の実行力に注目する局面と言えるかもしれませんね。