「ROEで読み解く大成建設」を読む
多くの投資家が節目として意識しがちな2万円に近付きつつある日経平均株価。個人投資家の特権でもある「休むも相場」の局面こそ、ROEや企業業績の先行きをじっくり見据えて、次の相場に備えましょう。
ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)
コスト増加で利益率が低下したケース
売上高が順調に伸びていても、原材料コストや為替の影響などによって当期純利益が減少して、ROEが低下するケースがあります。しかし、トップラインと呼ばれる売上高が着実に伸びているということは、事業に対するニーズがあるということ。コスト問題を解決する糸口が見つかれば、大逆転の可能性もあります。今回はそんなコントロールが難しいコスト増に悩まされているケースをご紹介します。
case11:東レ
今回取り上げるのは、日本を代表する化学繊維メーカーの「 東レ 」です。鉄より軽く、鉄の10倍の強度を持つ炭素繊維で世界トップシェアを握っており、旅客機ボーイング787などに使用されています。また、身近なところでは、ユニクロと共同でヒートテックやエアリズムなど大ヒット商品を開発しています。
利益率低下でROEも低下へ
2019年3月期の売上高は2兆3888億円と過去最高を更新しました。しかし、利益率が低下したことで当期純利益は793億円と前年よりも17%も減少し、ROEも9.1%から7.1%へと2期連続で低下しました。売上が増えているにも関わらず、利益が減ってしまった理由として主に2つの要因があると考えられます。
理由① 米中貿易摩擦の影響を受けた繊維事業
東レの事業のうち、約4割を占めるのが繊維事業です。ナイロン、ポリエステル、アクリルの3大合成繊維を活用して、人工皮革やアパレル製品などを手掛けています。
そんな繊維事業ですが、2019年3月期は、東南アジアなどの一部子会社の業績が低調だったほか、中国景気の減速により、年度後半から自動車に使われるエアバッグや紙おむつ向けの売れ行きが鈍化しました。米中貿易摩擦による余波が繊維業界にも影響を及ぼしたことがうかがえます。
理由② 原料コスト高で利益率が低下した炭素繊維事業
一方、航空機向けや風力発電向けのニーズが好調だったことから、炭素繊維を含む部門(炭素繊維複合材料事業)の売上は前期比2割以上も増加しました。しかし、原料である「アクリロニトリル」の価格が上昇したことなどによって、営業利益は前期比4割減の115億円にまで落ち込んでしまいました。
「アクリロニトリル」の価格は2018年の1年を通じて上昇し、年末にはいったん落ち着いたかに見えました。しかし、これを生産する欧州化学メーカーで製造トラブルが発生したことによって、再び価格が上昇しているとのこと。もともと炭素繊維複合材料事業は売上高営業利益率が15%を超すほど、利益率の高い事業でしたが、原料コスト高によって利益率は5%台にまで落ち込んでしまいました。
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①から東レを見てきました。米中貿易摩擦に加え、原材料のコスト上昇という、予測が難しい要因によってROEや株価が低下してしまっている同社。しかし、強みである炭素繊維のニーズは今後も増え続けるとみられ、悪材料出尽くしの局面が訪れれば、次第に業績も株価も回復するかもしれませんね。