事件化するストリートファッション【前編】

ファッション経済学/ 土家 啓延

ファッションを「経済」の視点からわかりやすく解説する本連載。今回は、メンズファッションについて解説します。ここ数年、メンズファッションでは、ストリートファッションの流行が続いています。そのストリートファッションを取り巻く経済動向を解説したいと思います。
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事件化するストリートファッション市場

街でお店に大行列している男の子たちを見かけたことはありませんか? 彼らは、限定品やコラボ商品、新作アイテムなどの購入を目的にならんでいます。この現象は行列にならぶのが好きな日本に限ったものではなく、パリやロンドン、ニューヨークでも同様に見かけられるようになりました。

昨年、スケートブランド「シュプリーム」の都内店舗で、行列の交通整理をおこなっていた警備員に対して、現場にいた男たちが暴行を加えるという騒ぎがありました。逮捕者が出たためニュースでも取り上げられたのでご存知の方も多いのではないでしょうか。また、ロサンゼルスの「シュプリーム」では、買い物を終えた客を狙い、銃で脅し商品を強奪する事件が発生するなど過激化しています。

他にも、2017年にラグジュアリーブランド「ルイ・ヴィトン」と「シュプリーム」がコラボレーションした際には、大行列が起きただけはありませんでした。先行発売がおこなわれる予定だったニューヨークでは、地域のコミュニティ委員会が発売前に協議をおこない、ブランド側に治安の問題があるという見地から販売中止を求め、実際にその店舗での販売が中止に至ったというほどの過熱ぶりを見せています。

いまさら聞けない「シュプリーム」って?

「シュプリーム」は、1994年にスケーターだった弱冠19歳のジェームス・ジャビア君がニューヨークにスケートショップをオープンしたことで誕生しました。

オープン当時は、スケートブランドを取り扱うセレクトショップでしたが、お店のオリジナル商品としてTシャツを販売したところ人気を博し、Tシャツ以外の商品も展開するうちにスケートブランドとして確立されていきました。

現在は世界に12店舗の路面店があり、そのうち7店舗は、日本国内にあります。他のブランドとのコラボレーションや、アニメーションからアーティストまであらゆるカルチャーとのコラボレーションをおこなう姿勢が、世界中で若者たちを中心に熱狂を生んでいる、今最も行列ができるブランドです。ラッパーやアーティスト、セレブリティも着用していることもあって、人気がさらに加速しているという状況です。

希少性がラグジュアリー化したストリートファッション

行列ができるほどの人気商品は、購入できる人が少ないため希少性が高く、転売価格が高騰する傾向があります。それは「希少性」という観点からすれば「ラグジュアリー」と言えなくもありません。ブランド側が意図しないほど高価なものになってしまっていますが、高値で転売されるほど「ブランド力がある」とも言えます。

SNS時代の「転売ヤー」

言うまでもないですが、こうした行列には商品を自分で使用する消費者だけでなく、希少性の高い商品を購入し転売することで利益を得ている転売目的のバイヤー、通称「転売ヤー」と呼ばれる集団も数多く並んでいます。もちろん事情は海外でも同じ。彼らは「Reseller」と呼ばれ、日本同様に転売を職業とし生活している人もいます。

転売を目的として購入された商品は、国内ではヤフオクやメルカリ、ラクマといったサイトで売買されています。また海外ではGrailedやStockX、GOATなどのストリートファッションの売買に強いサイトがあります。この転売市場はスニーカーだけでも、世界で約6730億円にまで成長を遂げています(StockX創業者ジョシュ・ルーバーのインタビューより)。

その市場規模の3分の1が転売での利益であると推測されています。つまり、1年間で約2200億円が転売という行為によって利益化されているのです。

ただこの転売という行為は、株式の売買と同様に、需要と供給のラインを見極めなければ損をすることもあります。シュプリームの場合、アメリカやEUでは木曜日に新商品が発売されます。一方、日本での発売は、その2日後の土曜になっています。なのでeBayや海外の転売サイトを見れば、日本での転売価格がどれくらいになるのかを予想することができます。

「転売アンテナ」というサイトには、国内での転売予想価格が掲載されています。このように、インターネットの発達によって、転売市場はかつてないほどに活性化しています。

次回は、細分化する転売サイト、そしてスニーカー投資について深掘りします。

<まとめ>
・インターネットやSNSの発達により、ストリートブランドの転売をビジネスとする「転売ヤー」が世界的に増えている
・商品の希少性から、人気が過熱し、行列が社会問題化したり事件化することも増えている
・2017年、転売による利益は世界で6730億円(スニーカーのみ)規模に成長した