「PERで読み解くNTTドコモ」を読む
「割安だと思って買ったものの、なかなか株価が上がらない」。そんな時は、PERとともに企業が主戦場としている「マーケットの規模」がどうなっていきそうなのかに注目してみましょう。PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
マーケットの縮小が止まらないケース
業界内でトップシェアを握るのは容易なことではありません。しかし、シェアNo.1になったからといって業績がずっと安泰かというとそうとも言い切れません。特に技術革新などによって、これまでとは違う方向からライバルが現れ、一気に既存マーケットの規模が縮小してしまうケースがあります。今回はそんな主力事業がマーケット縮小に直面しているケースをご紹介します。
case29:キヤノン
今回取り上げるのは、デジタルカメラやレーザープリンターで世界トップシェアを握る「 キヤノン 」です。売上高のうち約8割が海外向けとなっており、世界のカメラメーカーとして日本を代表する企業の1つと言えます。
厳しい業績、2つの要因
2019年4月24日に発表した2019年12月期第1四半期決算では、マーケットの予想を下回る結果となり、営業利益は404億円と前年同期比47.6%減となりました。また、同時に公表した今期見通しでも、従来予想から売上高・営業利益ともに下方修正するなど厳しい決算となりました。
この背景には2つの要因があると考えられます。1つは中国や欧州の景気減速による、売上の落ち込みです。そして同社を悩ます2つ目の要因が、デジタルカメラ市場の縮小です。
デジカメ市場は4分の1に縮小
この5年間でデジタルカメラの市場規模は、台数ベースで4分の1にまで縮小しました。これは、スマートフォンの高機能化に伴い、搭載される小型カメラがコンパクトカメラと見劣りしない性能になってきたことが背景にあります。また、最近では一眼レフの画質に匹敵するような、高機能カメラを搭載したスマートフォンも登場しています。このようにこれまでライバルではなかった製品にマーケットが奪われつつあります。
最高益に遠く、株価は上昇しづらい
同社の予想PER(東洋経済予想)は、2019年12月期ベースで17.3倍と、割高感を感じる水準ではありません。しかし上記などの理由から、当期純利益は過去最高益を更新した2007年の水準とは程遠く、なかなか株価も上昇しづらい状況が続いています。
今後の注目ポイント
2019年4月に発表した経営方針説明会によると、今後は、セキュリティ分野でニーズのあるセキュリティカメラや、市場の伸びが期待される医療分野の画像診断装置など、新規事業に力を入れていくとのこと。デジタルカメラ市場の縮小をいかに素早くカバーできる体制にするかが、今後の課題と言えるのではないでしょうか。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①からキヤノンを見てきました。テクノロジーの進化によって、これまでライバルではなかったスマートフォンに、大きくマーケットを奪われたデジカメ市場。グローバルトップシェア企業でも、マーケットそのものが縮小してしまうと、業績が伸びず、株価もPERも上昇しづらいことがうかがえます。こうした苦境を脱し、いかにスピード感を持って新しい事業の柱を育てられるかが今後のカギと言えそうですね。