「ROEで読み解く日清食品HD」を読む
決算発表が一巡し、投資家の目線は米中貿易摩擦と10月の「消費増税」後に移りつつあります。景気が下振れしそうなときこそ、ROEと中長期的な業績の行方を見据え、いま保有している銘柄のままで良いのかどうか見直しましょう。
ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。
(ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100)
東京オリンピック後の景気がカギ
観戦チケットの抽選申し込みがスタートするなど、いよいよ開催が迫る2020年東京オリンピック。一部では、オリンピック開催に伴うインフラ投資などの恩恵を受け、業績を伸ばしている企業があります。しかし、すでにその恩恵が薄れてきている企業もあり、「オリンピック後」の業績が不透明になっていることによって、現状ではROEが高いのですが株価は低迷しているケースがあります。
case10:大成建設
今回取り上げるのは、建設中の新国立競技場や、横浜ランドマークタワーなどを手掛ける「 大成建設 」です。大型土木工事から建築、戸建て住宅と幅広く展開。津波対策や超高層建物の閉鎖型解体など高度な独自技術が強みとなっています。
2019年3月期は増収営業減益
5月10日に発表された2019年3月期の決算発表では、売上高は前期比4%増収となりましたが、営業利益は1533億円と同16%の減益となりました。これは前の期に追加工事による収益貢献が大きい案件があった反動であり、一時的な要因とも言えます。竣工間近の案件は追加工事が増える傾向がありますが、19年3月期はそれが減った模様です。
ただ、要因はそれだけではありません。引き続き人件費の上昇により、労務費の増加が利益を圧迫しているようです。東京商工リサーチのアンケート調査によれば、業種別でみた人手不足感では、建設業のうち84%の企業が「人手が不足している」と答えたとのこと。これにより人件費も増加しているとみられ、大成建設の完成工事総利益率も低下傾向にあります。
受注高もピークアウトか
また、2020年東京オリンピック関連の工事が一巡しつつあることなどから、受注高そのものが頭打ち傾向にあります。こうした利益率の低下や、受注高のピークアウトが、同社業績の先行き不透明感を高め、株価が下落トレンドをたどっている理由の1つになっていると考えられます。
株主還元策の強化も焼け石に水?
一方、同社は2019年3月期決算発表と同時に、280億円を上限とした自社株買いを発表しました。自社株買いは「事業にお金を投資するよりも自社株を買ったほうが得だ」と考える経営陣による「将来業績への自信」を表すシグナルでもあります。また、いずれは発行済み株式数の減少にもつながるので、ROEを押し上げ、株価や投資家にとってもプラスに働くことが一般的です。
たしかに同社のROEは2020年3月期予想ベースでも14.7%と比較的高い水準にあります。しかし、それ以上に今後の業績見通しに不透明感が漂っているので、なかなか株価は上昇に転じにくい状況にあると考えられます。
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①②から大成建設を見てきました。自社株買いの発表という好材料がある一方で、人件費の上昇や受注のピークアウトによる先行き不透明感が強まっている同社。ROEが高いからといって必ずしも株式市場で評価されない一例とも言えます。東京オリンピック後の収益の柱を見つけられるかどうかが、今後の株価動向のカギとなりそうですね。