「PERで読み解く三菱商事」を読む
米中貿易摩擦の影響により、控えめな業績予想が相次いでいる2019年3月期決算発表。そんな時はPERをまず確認して、マーケットの評価が過度に悲観的となっていないかどうかをチェックしてみましょう。PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
政策提言がPERを押し下げるケース
一般的に、政府による新しい経済政策が企業業績に影響を及ぼす場合、補助金などによって業績にプラスに働くことが多いと言えます。しかし、消費者保護などを優先する政策では、ときに企業業績や株価にマイナスに作用することもあります。今回は、そんな政策提言が企業業績やPERを押し下げているケースをご紹介します。
case28:NTTドコモ
今回取り上げるのは、NTTの中核事業会社で携帯電話最大手の「 NTTドコモ 」です。携帯事業以外にも、CD販売のタワーレコードなどを子会社に持っています。最近では、dポイントを活用した異業種との協業を積極展開しており、携帯事業以外にも力を入れはじめています。
総務省の緊急提言で料金プランは見直しへ
携帯電話の料金体系が、2019年に大きく変わろうとしています。きっかけは、2018年8月に菅官房長官が携帯料金について「4割程度下げる余地がある」と発言したことです。その後、有識者会議などで議論が進み、通信契約と端末代金のセット値引きを禁止する法律が今国会で成立する見込みとなっています。
こうした動きを受け、NTTドコモは2018年秋に料金プランを見直すことを発表。そして2019年4月に最大4割安くなる新料金プランを公表しました。ユーザーにとって料金の値下げは非常に喜ばしいことですが、企業にとっては収益のマイナスにつながります。値下げによってユーザーが増加すれば良いのですが、いずれ他社も追随するものとみられ、同社は2020年3月期の減収減益を予想しています。
さらに同社がいま力を入れているdポイントによる異業種連携など非通信事業についても、まだ会社全体の収益を支えるような柱には育っていません。先行きを見通すことは難しく、投資家が嫌う「不透明感」が漂っていると言えます。
PER、配当利回りからは割安感
上記の理由などから、同社のPERは2019年3月期の実績ベースで12.2倍と比較的割安な水準にあります。また、予想配当利回りも5.0%(2019年5月7日終値、2019年度会社予想配当ベース)と高く、こうした投資指標からは割安感があると言えます。
①新料金プランで減収が予想されていること
②非通信事業の先行きが不透明なこと
ただ、こうした割安感は同社に限った話ではありません。PERを見ると、NTTドコモだけでなく、ライバルである「 KDDI 」も昨年秋以降は低下傾向にあります。つまり、これは個別要因ではなく、料金プランの引き下げ問題が通信事業者全体にとって共通した課題となっていることを示しています。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①③からNTTドコモを見てきました。業界全体を巻き込む料金体系の見直しによって、収益の圧迫が予想される同社。先行きの不透明感から、現状では割安な状態で放置されています。ただ、他社の新料金プランの発表などが、「悪材料出尽くし」ととらえられはじめれば、次第に株価は底堅い展開になる可能性があります。いまはまさに株価底打ちのタイミングを待ち望む局面と言えるのではないでしょうか。