この60年ほどで大きく伸びた日本人の寿命。1947年には男性50年、女性54年だった平均余命は今や男女とも約80年となっています。ところが、会社の寿命となると話は別。「中小企業白書」によると、新たに生まれた企業のうち、10年後には約3割の企業が、20年後には約5割の企業が退出しているそうです。なかなか厳しい世界ですよね。ところが日本には100年、1000年(!)と続いている会社があります。長生きな会社には、どんな秘密があるのでしょうか。日本の長寿企業を見ていきましょう。
見慣れたあのお寺、作ったのは【松井建設】
社寺の建築を手がける会社には長寿企業が多いようです。豊臣政権の五大老として活躍した前田利家はドラマの題材になることも多い戦国大名ですが、その命を受けて手がけた越中守山城の建設に端を発するのが「 松井建設 」です。創業は1586年ですから、400年以上の歴史を持つ長寿企業です。
前田利家は加賀を拠点とした大名ですから、松井建設も最初は富山県を地盤としていました。現在、本社を置く東京へ進出した背景には関東大震災がありました。がれきの山と化した帝都・東京の惨状を見た当時のトップは「帝都復興こそ建設にかかわる者の使命」と、東京進出を決意したといいます。
それまでは社寺建築を主に手がけていた松井建設は東京進出以降、総合建設業として飛躍していくことになります。400年の間に松井建設が手がけたのは小田原城に築地本願寺、増上寺、寒川神社などそうそうたる建物ばかり。文字通り、歴史を築いた会社であり、近年ではオフィスビルや商業施設なども手がける松井建設。投資を通じて歴史の重みを感じることもできそうですね。
聖徳太子の時代から続く超長寿企業【高松コンストラクショングループ】
聖徳太子といえば日本史の授業で耳にしたり、40代以上の人なら「1万円札の人」と覚えているかもしれません。聖徳太子が生まれたのは6世紀と言われていて今から1400年も前なので縁遠い存在に思えますが、「 高松コンストラクショングループ 」を通すと、身近に感じるかもしれません。
高松コンストラクショングループは関西を地盤にした中堅ゼネコン。M&Aを積極的に進めており、グループ企業のひとつに社寺建築を専門とする「金剛組」があります。この金剛組、「世界最古の企業」とも言われており、その創業は578年。聖徳太子が百済から招聘した3人の職人のひとり、「金剛重光」が創業した企業なのです。
高松コンストラクショングループには金剛組をはじめ、同じく社寺建築を手がけ、こちらも970年創業と1000年以上の歴史がある「中村社寺」、埋蔵文化財発掘大手の「島田組」、高級内装専門の「住之江工芸」など特色豊かな企業がそろっています。個性派企業揃いの高松コンストラクショングループ、おもしろい投資先と言えそうです。
創業時の筆頭株主は明治政府でした【帝国ホテル】
「夜は何を着て寝るの?」「シャネルの5番だけよ」。マリリン・モンローが記者会見で見せた当意即妙なやり取りは有名ですが、この記者会見が「 帝国ホテル 」で行われていたことまでご存知の方は少ないかもしれません。
日本を代表するホテルである帝国ホテルの開業は1890年。外務大臣だった井上馨が海外からの賓客をもてなす西洋式ホテルの必要性を渋沢栄一や益田孝、大倉喜八郎などの実業家に相談し生まれました。そのため当時の筆頭株主は明治政府でした。当時の室料は一泊2食付きで2円50銭ほどだったそうです。
日本を代表する高級ホテルとして、100年以上も君臨し続ける帝国ホテルですが、タワー館の改装やSNSでの情報発信の強化など時代への対応も怠っていません。「観光立国」は日本のめざす方向のひとつでもありますし、2020年の東京オリンピック開催にむけて訪日観光客の増加にも期待できるかもしれません。「成功したら帝国ホテルに泊まろう」なんてモチベーションで投資してみるのもいいかもしれませんね。
「文明ノ業」を営み続ける【大日本印刷】
文明ノ業ヲ営ム――1876年に創業した秀英舎の舎則にはこう書かれていたそうです。秀英舎とは、現在の「 大日本印刷 」です。「印刷業」ではなく、「文明ノ業」としたあたり、創業者たちの志の高さが伺えます。明治政府が始まった1868年。それとともに進んだ文明開化に、大日本印刷は書物を手軽に届けることで貢献しました。
「天は自ら助くる者を助く」という言葉で知られる「西国立志編」は当時、100万部のベストセラーとなりました。激変する時代の中、どう生きるべきか迷う人々がこぞって手に取ったといいます。この本を印刷したのも大日本印刷でした。
活版印刷からパソコンを利用したDTP、そして電子書籍へと時代にあわせてツールは変われど、大日本印刷は「文明ノ業」を営み続けています。書籍だけでなく、パッケージやエレクトロニクス、さらには清涼飲料まで事業領域を拡大させながら続いてきた大日本印刷。これからの文明の発展にもひと役買ってくれそうです。
日本の近代化を推進、造船業から始まった【IHI】
東京都中央区の東京湾に面した土地に8棟の超高層マンションが立ち並んでいます。ここは日本の近代化を主導した産業のひとつが芽吹いた土地でもありました。その産業とは造船業です。江戸時代末期、この土地に作られたのが石川島造船所です。
石川島造船所はやがて民間に払い下げられ、そして生まれたのが石川島播磨重工業、現在の「 IHI 」です。総合重機大手として航空エンジンや宇宙ロケット、橋梁や水門、交通システムから農業用トラクターまで幅広く手がけるIHIですが、始まりは1853年に水戸藩がつくった造船所でした。
創業から約160年、日本のインフラを支えてきたIHI。中央区佃の造船所は再開発によりなくなりましたが、「石川島資料館」が作られています。資料館でIHIの歩みを振り返りつつ、日本の未来をイメージしながら投資を検討してみるのもよさそうですね。
時代の変化に寄り添いながら発展したり、あるいは得意分野を磨き続けたり、いろんなタイプの長寿企業があるようです。時代の荒波を乗り越えてきた長寿企業なら、これから世界がどう変わっても生き抜いてくれるかもしれませんね。
今回のテーマで取り上げた上場企業
松井建設
高松コンストラクショングループ
帝国ホテル
大日本印刷
IHI