第2回 高温と低温を同時に達成するのがコツ〜焼く料理のキホン

3分でわかる・ 知るとうまくなる、料理のキホン/ 樋口 直哉 、 Noritake

フライパンで焼く料理は茹でる料理よりも難易度が上がります。
例えば『目玉焼き』を例に考えてみましょう。
第1回「完璧なゆで卵のつくり方〜煮る、茹でる料理のキホン」を読む

【目玉焼き】焼く料理のジレンマ

1.弱火にかけたフライパンでバター小さじ1を溶かす。バターが溶けたら、卵2個を静かに割り入れ、白身の部分だけに塩を振る
2.弱火のままじっくりと加熱し、黄身の周りにある白身が透明から白くなるまで加熱する
3.器に盛り付け、好みで白胡椒を振る

目指すのは白身はしっかりと固まり、黄身は滑らかな状態。卵のタンパク質の変性温度については、前回のゆで卵の時にも説明しましたが、問題は黄身と白身で目標温度と、熱の伝わりやすさも違うことです。黄身は65℃〜70℃で、白身は75℃〜78℃で固まります。この温度の違いを頭に入れておくと、目玉焼きが成功する確率はかなり上がります。

例えば学校の家庭科の時間に習う目玉焼きのつくり方は『充分に熱くしたフライパンに卵を割り入れて、蓋をして蒸し焼きにする』というもの。この方法はフライパンに閉じ込めた100℃の水蒸気で黄身を加熱することになります。これはただでさえ凝固温度が低い黄身を積極的に加熱するわけですから、失敗する確率が高くなります。

白身だけに塩を振ることにも理由がちゃんとあります。黄身に塩を振るとその部分に斑点ができ、美しさが損なわれるという理由もありますが、塩を振ることでタンパク質の凝固を早めることができるので、白身に早く火が通る=黄身に火が通り過ぎないのです。
固まった白身に、温まって濃度がついた黄身を絡めながら食べる目玉焼きは極上の料理。焼く料理の基本なので、目玉焼きが上手にできれば様々な焼く料理が上達します。

焼く料理が茹でる料理よりも難しい理由は温度。茹でる料理は基本的に水の沸点である100℃で加熱しますが、焼く料理はそれよりも高い温度で加熱します。温度が高いほど調理は早く進むので、加熱しすぎたり、焦げてしまったり、といったリスクが上がるのです。

強火、中火、弱火の使い分け

目玉焼きは終始弱火を使いましたが、焼く料理では目的の仕上がりに応じて「強火、中火、弱火を使い分けることが重要」です。
強火、中火、弱火の用途をざっくりと憶えておくと役に立ちます。料理書ではこの強火、中火、弱火の使い分けについてはあまり詳しく書いていません。鍋の違いやコンロの火力、素材の水分量などの変数が多く、説明しきれないからです。
中火でもなにも入れていないフライパンを火にかけ続ければ強火と同じくらい表面温度は上昇しますし、逆に水分の多い具材をたくさん投入すれば、煮ているのと同じ状態になってしまいます。調理の前に、素材の水分が鍋の表面温度に影響することは頭に入れておいてください。

まず、強火は基本的に表面にカリッとした香ばしさを得たい場合に使います。この時のフライパン表面の温度は180℃〜200℃くらい。これは揚げ物をカリッと香ばしく揚げたい時の油の温度と同じです。
強火で焼く料理には『牛肉のステーキ』や『炒め物』があります。また、『オムレツ』なども強火で一気に加熱することで水蒸気が蒸発し、卵がふっくらと仕上がります。
ただ、強火で熱したフライパンに油を注ぎ、食材を入れたら、火加減を中火に落とすのがセオリー。鍋肌の温度を維持するだけの火力があればいいからです。
じつは焼く料理では強火はあまり使いません。ガスコンロの強火の使い道は主に<鉄のフライパンを予熱するとき>と<お湯を沸かすとき><肉の表面に強い焦げ色をつけたい場合>の3つです。

焼く料理で一番、使用頻度が高いのは中火です。フライパンの温度は160℃前後で、鶏肉や豚肉、魚、野菜などにじっくり火を通したい時に向いています。

『表面が焦げているのに中が生になってしまう』
という失敗の原因はほぼすべて火加減が強すぎること。失敗した場合は、次に料理するときに少し火を弱めてみてください。最近のコンロは高火力なので、思ったよりも火が強い場合があります。

素材から蒸発する水分によって鍋の表面温度はある程度、一定に保てますが、もしも表面温度が高くなりすぎる場合はフライパンを火から外して調節します。ただ、ガスの場合は熱源からの距離でも火加減を調整できますが、IHの場合は離すと火が消えるので、細かい調節は難しいかもしれません。
IHの場合は温度を一定に保つようになっているので、温度が高くなりすぎる心配は少ないかもしれませんが、逆にレシピに中火で加熱するように書かれていた場合、そのとおりに料理したら焦げ目がつかないことも。その場合には火加減を調整してみましょう。

さきほど目玉焼きを焼くのに使った弱火の表面温度は120℃〜140℃くらい。ジャガイモやレンコンなどの根菜、大きな肉の塊を焼く場合に使う火加減です。ゆっくりと火が通る安全運転なので、初心者の人にオススメの火加減かもしれません。

しかし、弱火には弱点があります。水分が多い素材を入れると100℃前後で煮た状態になってしまったり、焦げ目がつかない場合があるのです。焦げ目が欲しい場合は弱火で火を通した後、強火であぶるなどの工夫が必要です。

【鶏の照り焼き】高温と低温を同時に達成することが焼く料理のポイント

1.鶏もも肉1枚に軽く塩を振る
2.中火のフライパンに皮目を下にした鶏肉を入れる。フライ返しや鍋底などで上から抑えて、皮目をフライパンに押し付けるようにして焼き、こんがりした焦げ目がついたら裏返す。フライパンにたまった脂をキッチンペーパーでふきとる
3.酒大さじ2、醤油大さじ1、みりん大さじ1、砂糖大さじ1を加えて、火を弱火に落として蓋をして、5分間蒸し焼きにする。タレにとろみがついて絡まったら、お皿に取り出し、2分〜3分ほど休ませ余熱で火を通す

卵は白身と黄身で求める仕上がりの温度が異なりましたが、実はそれは肉や魚も一緒。
例えば鶏は皮と身で火の通り方が異なりますし、肉と脂でも違います。そして、肉は表面に香ばしい焼き色がついて、内側は加熱しすぎずジューシーというのが理想。つまり、高温と低温という二つの温度を達成することが焼く料理の目標なのです。

次に紹介するのは照り焼きです。フライパンを使って鶏の照り焼きをつくってみましょう。照り焼きは焼いている途中に調味料を入れることで、鍋肌の温度の上昇を抑え、なかまで火を通す技法です。最初は高温で、次は液体の沸点=100℃で加熱します。

鶏のもも肉に最初に振った塩は下味ですが、あとから調味料が入りますからここでは軽く振っておきましょう。塩は入れすぎると後から調整が効きません。

フッ素加工されたフライパンに皮目を下にした鶏もも肉を入れて、中火で焼きはじめます。鶏は皮下脂肪が多いので、油を引く必要はありません。鉄やステンレスのフライパンをつかう場合は充分に予熱してから油を引き、一度、鍋を火から外して温度を下げてから、同じように焼きはじめます。

鶏もも肉の表面は平らではないので、はじめにフライ返しや鍋底などを使って上から軽く押さえつけ、皮目をまんべんなく焼くようにしましょう。皮の下の脂を抜くようにして、じくじくと焼いていくと、皮が縮んでくるのがわかります。皮目から出た脂には鶏の臭みなどが溶けているので、ここで一度、出てきた脂をキッチンペーパーでふきとります。箸やトングで鶏肉を持ち上げて皮目の様子を観察し、カリカリに焼けていたらOK。

調味液を加えると鍋肌の温度が一気に下がります。こうなればフライパンに水分が残っている限りはもう焦げることはありません。目玉焼きとは違い、蓋をして蒸し焼きにすることで鶏肉全体を加熱します。

目指す中心温度は65℃程度。火が通ったかどうか確かめるには温度計を差し込むのが一番、簡単です。60℃くらいになったら取り出して、あとは余熱で加熱します。熱が内側に伝わるには時間がかかるので、休ませてから温度計で確認し、もしも温度が低すぎればまた火にかけることを繰り返せばいいのです。

好みで山椒を振りかけてもいいでしょう。同じようにブリやカジキマグロなども照り焼きにできます。おいしい照り焼きがあるとご飯が進みますよ。

料理を理解するために知っておきたい3種類の加熱方法

鶏の照り焼きではまずフライパンで表面を焼いてから、タレを入れて蓋をしました。最初のフライパンで表面を焼いたのは『熱伝導』を使った加熱です。タレを入れて蓋をすれば水蒸気によって肉の表面が加熱されます。これは『対流』による加熱ですね。
一口に焼くといっても様々な加熱方法があります。
熱の伝わり方は小学校の理科の時間に習う概念ですが、これも料理の基本的な概念なので、原理を理解しておくと理解に役立ちます。

熱伝導の”フライパン”

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熱の伝わり方は『熱伝導』『放射熱』『対流』の三つ。レンガを火にかけると、まず外側の部分が熱くなり、その熱は次第に内側に伝わっていきます。これが熱伝導です。熱伝導率(熱の伝わりやすさ)は物質によって異なるので、同じガスコンロにかければ、鉄よりもアルミ、アルミよりも銅のフライパンのほうが早く熱くなります。
早く熱くなる、ということは冷めやすいということでもあります。肉を焼くのに鉄のフライパンが適しているのは一度、熱くなってしまえば温度が下がりづらいから。温度が下がらないので、安定してムラなく焼ける、ということです。
フライパンを選ぶとき、材質の次に大切なのは厚さです。底が厚いと熱を均等に伝え、冷めにくいので、肉は上手に焼けます。ただ、重いのが弱点です。分厚い鋳鉄のフライパンが一枚あると長く使えるのでいいですが、その前に腕の筋肉を鍛える必要があるかもしれません。

放射で加熱する“直火”

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肉や魚を炭や薪などの熱源で焼く直火焼きは、熱源から放射される赤外線によって加熱される調理法です。
放射での加熱のメリットはその高温。例えば七輪におこした炭で肉や魚を焼くと、香ばしい焼き色がつきます。家庭の魚焼きグリルも放射による加熱ですね。最近の魚焼きグリルは高性能で、両面焼きグリルは400℃程度まで、片面焼きは300℃〜350℃程度で加熱することができます。ただ、直火で焼く場合の失敗例は表面が焦げて、なかが生というパターン。焼肉や焼き鳥、干物のように食材を薄くしたり、小さくすれば焦げる前に上手に中まで火を通すことができます。ただ、魚の切り身など素材が分厚い時はフライパンで焼いたほうがうまく焼けるかもしれません。

魚焼きグリルは魚以外を焼く場合にも便利です。鶏モモ肉を焼けば脂が落ちて香ばしくなりますし、野菜を焼くのにもオススメです。ズッキーニやナス、パプリカ、アスパラガスなどの野菜を適当な大きさに切って、表面にオリーブオイルを塗り、軽く塩を振ってからグリルします。表面に焦げ目がつけば出来上がり。さっと火を通せば食べられる野菜に向いている調理法です。

放射と対流で加熱する“オーブン”

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肉の塊にじっくりと火を通したい場合は、直火焼きよりオーブンでの調理が向いています。オーブン調理は19世紀後半に生まれた比較的、新しい調理法で、こちらは熱放射だけではなく、庫内の空気の対流によって加熱します。
温度は最高でも250℃程度。水の沸点よりも高いですが、空気は水よりも熱伝導効率が悪いので、加熱には時間がかかります。オーブンの熱い庫内に手を差し込んでもしばらく平気なのはこのため。
ジャガイモは茹でれば数分で火が入りますが、オーブンで焼くとなると数十分はかかります。これは熱の伝わり方の違いによるもの。しかし、オーブンで焼いたジャガイモには代えがたい魅力があります。オーブンで焼くと表面が乾燥するので、香ばしい焼き色がつくのです。この焼き色はメイラード反応によるもの。

「おいしさ」を生み出すメイラード反応

メイラード反応のメイラードは人の名前です。フランスのルイ=カミーユ・マイヤール(英語読みでメイラード)さんは、細胞のなかのアミノ酸と糖類の反応を調べていた内科医でした。調理で生まれる肉の風味とこの反応が関係していることがわかったのは彼の死後。自分の名前が料理の世界で連呼される今の状況をメイラードさんが知ったら、きっと驚くでしょうね。

さて、メイラード反応はアミノ酸と還元糖が起こす化学反応で、いわゆる「おいしさ」をつくる反応です。世の中のおいしい食べ物のほとんどにこの反応は関わっています。肉や魚、卵が焼けた香ばしさ、チョコレートやコーヒーのおいしさもすべてメイラード反応の産物です。日本料理でも鰹節の香り、みりんや醤油、味噌などの風味はこの反応に由来します。
メイラード反応は複雑で、まだ完全には解明されていない部分もあります。なにしろ糖やアミノ酸は種類が多く、温度や環境の酸性度、共存物質などによっても状態が変わってくるからです。
料理をする際はとりあえずメイラード反応が進む温度について理解しておくと役に立つでしょう。メイラード反応は140℃以上で顕著に進むので、いい香りを出すには高温で調理をする必要があります。水分がある限り100℃以上にはならないため、肉や魚を焼く時は表面の水気をふき取っておきましょう。

<まとめ>
・高温と低温という二つの温度を達成することが焼く料理のコツ
・『熱伝導』『放射熱』『対流』の三つの熱の伝わり方を意識して加熱をコントロールしよう
・140℃以上の高温で加熱するとメイラード反応が起こり、「おいしさ」が生まれる