ROEで読み解くJT

水曜日はROEをトコトン!/ 日興フロッギー編集部サヌキナオヤ 

伝説の投資家ウォーレン・バフェットがPERと同じくらい重視している指標、ROE。日本の株式市場の大きなシェアを占める海外投資家や、企業経営者も注目する投資指標です。そこで水曜日は具体的な企業を通して、トコトンROEについて見ていきたいと思います!

1分で学ぶ「ROE」

ROEとは、「Return On Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」または「株主資本利益率」と言います。ROEは1株あたり利益(EPS)を1株あたり自己資本で割ることで計算でき、5%、10%というようにパーセンテージで表されます。日本企業の場合、一般的に8%が資本効率の1つの目安であると言われ、それを上回ると資本効率が良いと判断されます。

ROE(%)=1株あたり利益(EPS)÷1株あたり自己資本×100
(もしくは、当期純利益÷自己資本×100)

ROEは収益性と「株主への姿勢」を表す投資指標

ROEは「自前の資本金でどれだけ効率的に利益を稼げているか」がわかる、収益性を測る指標です。たとえば、純利益10億円を稼ぐ企業が、自己資本100億円であれば、ROEは10%ということになります。これが高ければ高いほど、効率的に利益を稼げていることになります。

資本金以外にも銀行や投資家から借金をすることで、企業は資金を賄うこともできます。しかしこれらは、「負債」と呼ばれ、金利を支払わなければならないほか、常に借り換えを考えていかなければなりません。一般的には、こうした有利子負債を少なくして、自前の資本金と事業で稼いだ現金(キャッシュ)で日々の経営を行うことが健全な経営とみなされます。ROEが投資家や経営者に注目されるのはこのためです。

また、ROEは「株主への姿勢」を表す指標でもあります。企業が配当や自社株買いといった「株主還元策」を実施すると、その分自己資本が減ります。それにより、上の式にある分母が小さくなり、ROEを引き上げることにつながります。もちろん利益を増やし続けている企業もROEを重視していると言えますが、「株主還元に積極的な企業」もROEを重視した経営を行っていると言えます

case1:JT(日本たばこ産業)

今回取り上げるのは、たばこ市場で国内ではシェアトップ、世界でも第3位のシェアを誇る「 JT(日本たばこ産業) 」です。かつては「桃の天然水」や缶コーヒー「ルーツ」ブランドなどの飲料事業も手掛けていましたが、2015年9月に撤退。最近では、分煙スペースを作りたい企業・サービス業のニーズにこたえる、分煙コンサルティングなども手掛けています。

ROEは高く、財務健全性も良好だが……

JTのROEは15.0%と、目安である8%を大きく超えており、収益の効率性は比較的高いと言えます。また、財務の安全性を示す自己資本比率(自己資本÷総資産)も52.9%と、負債を膨らませてROEを高く見せているわけでもありません。自己資本比率は、総資産に占める自己資本の割合で、財務健全性を示す指標です。負債を増やしてROEが高くなっていないかをチェックする上で、よくROEと併せて見られています。

一般的には、このように収益性や財務面から見て優良な銘柄は、株式市場でも評価される傾向があります。しかし、昨今同社の株価は低下傾向にあり、なにかほかに大きな課題を抱えていることが考えられます。

市場縮小が続く紙巻たばこ市場

株価が低迷している一番大きな理由は、国内の紙巻たばこ市場の縮小です。2002年度までは年間3000億本以上販売されていましたが、2017年度は1455億本と半分以下にまで減少。その間、値上げが行われ、単価は上昇しているとはいえ、マーケットの縮小が大きな業績のダメージにつながっています。電子たばこの販売も進めていますが、そもそもの喫煙率の減少(2005年:29.2%→2018年:17.9%)が足かせとなっているようです。

カギを握るのは海外M&A

そうした中、株価が底打ちするとしたら、どんな状況が考えられるでしょうか。1つはさきほどの国内市場の縮小に底打ち感が見られること。そして、もう1つは、海外収益の拡大が考えられます。

すでにJTは国内市場の縮小を見据え、海外事業の強化を図ってきました。2007年には英ガラハー社を、2015年には米レイノルズの子会社を買収し、売上高の58%(2017年12月期)を海外で稼ぐようになっています。ただ、まだフィリップ・モリスやブリティッシュ・アメリカン・タバコなどにはシェアで競り負けている部分もあり、価格支配力などにおいて強力なグリップ力を持っているとはいいがたい状況です。さらなる企業買収や、新たな世界戦略などが奏功するような局面になれば、高いROE水準に見合った、株価の上昇も期待できるのではないでしょうか。

<ROEの読み解き方3ヵ条>
①これからの業績を考える
②株主還元策を考える
③投資家の心理を考える

今回は、①からJTを見てきました。一般的には、ROEが高く、財務面で健全な企業は高く評価される傾向があります。しかし、国内のマーケットそのものが縮小傾向にあるなど、これからの業績が不透明であれば、株価は下落してしまいます。ROEだけでその企業を判断するのではなく、これからの事情環境全体を見通すようにして、投資の是非を考えることをオススメします。

本記事は、ROEを解説するものであり、素材として取り上げた企業への投資を推奨するものではありません。原則として原稿作成時点における情報に基づいて作成しております。また、記載された価格、数値等は、過去の実績値、概算値あるいは将来の予測値であり、実際とは異なる場合があります。投資に関する最終決定はお客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。