「PERで読み解くJ.フロント リテイリング」を読む
今年も、月曜日はトコトンPERのいろんな見方をご紹介します! PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
PERと一緒に考えたい、数年先の収益源
一般的には、今期や来期など比較的短期の視点での業績予想などをもとに割高・割安を判断するPER。しかし、中にはもっと長期に渡った業績の行く末を考えなければ、買い時かどうかの判断を見誤ってしまうケースもあります。
case21:日本郵政
今回取り上げるのは、日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の持ち株会社である「 日本郵政 」です。中でも日本郵便に関しては、この年末年始に年賀状でお世話になった人も多いのではないでしょうか。2015年11月に上場を果たした日本郵政ですが、その後の株価は低迷し続けており、PERも低下傾向にあります。
2つの逆風
日本郵政の株価やPERが低迷している理由は大きく分けて2つあると考えられます。
1つ目は、日本銀行によるマイナス金利政策です。
この政策の影響で、国債の金利が大きく低下しました。日本郵政傘下のゆうちょ銀行とかんぽ生命では、預かっている資産のそれぞれ約3割、5割にあたる計102兆円あまりを国債で運用しています(2018年3月末時点)。そのため、金利低下が国債の利回り悪化につながっており、収支を圧迫してしまっているのです。これは金融機関全般に言えることでもありますが、こうした金融環境が投資家心理を悪化させているものと考えられます。
2つ目は、将来の成長性に対する懸念です。
日本郵政の収益は、主に日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の収益から成り立っています。セグメント別の経常利益をみると、その9割近くをゆうちょ銀行とかんぽ生命による利益が占めていることがわかります(2018年3月期ベース)。
金融2社はいずれ手放すことに
そうした中、今後徐々に日本郵政はゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式を手放すことが予定されています。現在、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の発行済み株式のうち、それぞれ74%、89%の株式を日本郵政が保有していますが、いずれは全株式を売却することが法令で定められているのです。つまり、日本郵政に占める「銀行業」と「生命保険業」の利益がいずれなくなるということを意味します。
物流事業の強化が課題
完全に手放す時期はまだ数年先だと思われますが、その時に備えて、同社は他の事業を強化していく必要があります。その第一弾として発表されたのが、2015年のオーストラリア物流大手トール・ホールディングスの買収でした。オーストラリア国内だけでなく、グローバルな物流事業を手掛ける同社を買収することで、日本郵便が持つ物流事業を拡大・強化しようとする狙いがありました。しかし、トール社の業績は悪化し、4000億円もの減損損失を計上。日本郵政の2017年3月期は赤字に転落してしまいました。
最近ではようやく利益を生み出すようになってきましたが、国内における郵便事業の見直しも含めて、さらに新しい収益事業を見つけ出すことが急務と言えそうです。たしかにPERは低く割安にも見えますが、きちんとそうした未来の収益の柱が育ちそうなことを確認してから、投資を検討してみても遅くはないかもしれません。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は、①から日本郵政を見てきました。一見、2つの金融事業が収益を安定的に稼ぎ出しているように見えても、実は数年先まで見通すと、収益の柱が見えにくくなっている同社。新たな利益を生み出す事業を見つけられるまでは、PERなど投資指標による投資判断は難しい状況が続きそうです。PERだけで割安を判断するのではなく、会社の数年先の姿も想像する習慣も身につけてみてはいかがでしょうか。