「PERで読み解くデンソー」を読む
10月11日のように、日経平均が1000円近く動いたときにこそ確認しておきたいPER。PERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
大型案件がPERを左右する
将来の業績見通しが明るくても、目の前のトランプ大統領の政策によって、PERが低く抑えられてしまうケースを前回はご紹介しました。今回はそういった経済政策による影響ではなく、個別の大型受注案件の行く末に、PERの運命がかかっているケースをご紹介します。
case12:日立製作所
今回取り上げるのは、大規模な社会インフラから家電まで幅広い事業を手掛ける「 日立製作所 」です。同社は、リーマン・ショック後の巨額損失を契機に、総合路線を見直し、電力、鉄道、情報システムなど社会インフラを重視する戦略にシフトしました。
2018年4ー6月期決算では、営業利益が1481億円と前年同期と比べて+12.4%となりました。赤字・低収益部門の事業を縮小するなど、これまで実施してきた構造改革効果や生産性改善が実を結び、収益の改善につながっているものと考えられます。
英国原発プロジェクトが重しに
しかし、株価は2018年に入ってから頭打ち状態 。予想PER(東洋経済予想)も8.3倍と低い状態にあります。もちろん、最近の貿易戦争による先行き不透明感も重しとなっていますが、日立製作所の場合、英国の原発事業という大きな案件が影を落としているものと考えられます。
このプロジェクトは、同社の英国子会社が原子力発電所を建設するプロジェクトで、2020年代前半の稼働を目指しているものです。日英両政府による政府間プロジェクトでもあり、日本の原発輸出の柱となっています。
交渉決裂の可能性も!?
ただ、原発の安全規制の強化などにより人件費・検査費が増え、事業コストが当初の約2兆円から約3兆円にまで膨れ上がってしまいました。同社は体制の見直しでコスト削減を図っているほか、英国政府に出資額の引き上げなどを求めていますが、依然として交渉は続いているようです。この交渉の不透明さが、PERの低下につながっているのです。
日立製作所に占める、原発を含む「社会・産業システム」部門の売上高は昨年度2.4兆円と最大でした。このことからも、同社にとっての原発事業の重大さが見てとることができます。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は①と③から日立製作所を見てきました。一時的なマーケットに広がる不安感であれば、将来の業績を見通すことで、正確な会社のバリュエーションを測ることができます。しかし、今回のような、個別の大型案件の場合は、成功すればPERが急上昇するかもしれませんが、失敗すればさらに低下することも考えられます。つまり、今、投資判断をするにはリスクが大きいと言えるでしょう。こうした事案を抱えている企業については、投資タイミングを慎重に見極める必要があると考えられそうです。