「PERで読み解く資生堂」を読む
株を買うタイミングを計るための代表的な投資指標であるPER。そのPERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
先行きの不透明感はPERを押し下げる
PERの水準から買い時かどうかを判断する際には、その企業が中長期的な業績に影響する情報を投資家に適切に発信しているかどうかもチェックしましょう。なぜならば、業績に不透明感があると投資家に不信感が生じ、株価やPERにも大きな影響が表れるからです。
case9:JR東海
今回取り上げるのは、「のぞみ」や「ひかり」といった東海道新幹線でおなじみの「 JR東海 」です。同社は2018年3月期まで8期連続で増収営業増益を達成しているなど業績は好調です。国内景気が良好で、ビジネスマンや旅行者の利用が増えているほか、海外旅行客の増加などが新幹線収入を押し上げています。
JR4社の中でPERは一番低い
ただ、業績が好調であるにも関わらず、予想PER(東洋経済予想)は10.6倍と業種平均を大きく下回っています。また、同じくJRグループである「 JR東日本 」が13.1倍、「 JR西日本 」が14.0倍、「 JR九州 」が11.2倍と比較しても割安な水準にあることがわかります。同社のPERが低い理由としては、2027年に開業を目指す「リニア新幹線」をめぐる2つの懸念が挙げられます。
懸念① リニア新幹線開業の不透明感
1つ目はリニア新幹線開業後の業績が見通しにくいという点です。リニア新幹線は品川・名古屋間を40分で、品川・大阪間を67分で結ぶ新線として、2027年にまずは名古屋までが開業する予定です。新たな交通の大動脈として期待が高まりますが、このリニア新幹線に関する業績見通しを2010年に単体営業収益1.2兆円程度と発表して以降、アップデートされていません。業績見通しの不透明さは投資家が最も避けたがるポイントでもあります。
懸念② 低い配当性向
2つ目はリニア新幹線への投資を理由に、配当性向が約7%と非常に低い点です。配当性向とは、企業が事業によって生み出した最終利益のうち、どれぐらいの利益を株主に配当金として配ったかを示す指標です。JR東海は2018年3月期に当期純利益が3955億円で、配当総額が276億円でしたので、配当性向は7%となります。
一方、JR東日本は18.7%、JR西日本は28.1%、JR九州は26.3%といずれもJR東海より高くなっています。会社側はリニア新幹線工事により5.5兆円(東京ー名古屋間)と多額のコストがかかっていることを理由に安定配当の方針を示していますが、低い配当性向がPERの上昇を抑えている可能性もあります。
しかし、いずれの懸念も今後のリニア新幹線工事の進捗などによって次第に解消される可能性があります。すでに南アルプス本線トンネルの掘削工事が始まるなど、着実に計画は進捗しています。これから収益見通しが新たに示されたり、配当性向の段階的な引き上げなどが発表されるのであれば、投資家心理の改善によりPERの水準も上昇するかもしれません。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は①と③を中心にJR東海を見てきました。PERで割高・割安を判断するときは、企業の業績見通しや、配当方針など、投資家が懸念するようなポイントがないかどうかもチェックするようにしましょう。