「PERで読み解く任天堂」を読む
日本を代表する企業をPERから読み解いていく本連載。そのPERは株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算でき、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
PERのカギを握る「景況感」
一般的に、PERが低下するときは、業績の悪化が見込まれている、もしくはその業界の成長見込みがないと判断されるときです。しかし、企業の業績が左右されるのはなにも業界の動向だけではありません。米国や中国など、海外進出している国の「景況感」が一時的に悪化することでも、業績やPERが落ち込むケースがあります。
case7:ファナック
今回取り上げるのは、馴染みのない方もいるかもしれませんが、あらゆる製造工場がお世話になっている「 ファナック 」です。同社は工場の自動化(FA)に欠かせない、工作機械の頭脳となる数値制御(NC)装置や、多関節ロボットを手掛けています。2017年まではスマホ需要の高まりから、中国の製造工場からの受注が増え、業績を大きく伸ばしていました。
人手不足でロボットニーズ高まる
工場の自動化の追い風もあり、株価は2018年初に3万円を超え、予想PER(東洋経済予想)も37倍程度まで上昇しました。世界的な人手不足から、製造ラインの「手」となるロボットの需要が増え、ファナックの受注は大きく伸びました。
スマホ減速と米中貿易摩擦
しかし、スマホ需要の落ち込みによって、工作機械のニーズが減るとの思惑から、その後の株価は低迷。2018年8月17日時点で株価は2万1855円、予想PERは24.9倍にまで下落しています。
ただ、春以降の株価やPERの低下は単純にスマホ需要の鈍化だけではないようです。ファナックは売上の約8割を海外が占めており、特に中国は全売上高の約3割を占める重要なマーケットとなっています。そんな中国は、今年に入ってからの米中貿易摩擦懸念により、景況感が悪化し始めています。代表的な景況感指数(財新製造業PMI)は、好不況の境目である50を上回ってはいるものの、 新規受注の落ち込みなどにより、年初より下落しています。
工場自動化のニーズは根強い
では同社の業績はお先真っ暗なのかというと、そんなことはありません。すでにマーケットでは米中貿易戦争の影響がある程度織り込まれていることに加え、最近では米中で対話を促す動きも見られます。また、工場の自動化は世界的な人手不足の影響から待ったなしの状況で、多関節ロボット等に対する需要は根強いものがあります。ひとたび追い風が吹けば、再び見直される場面が訪れるのではないでしょうか。
売上比率の高い国の景気をチェックしよう
投資を検討するうえでは、単純に売上高や営業利益だけではなく、その企業が売上をあげている国・地域の景況感をチェックしてみましょう。そうすることで、いま株価が上がっている・下がっている理由が見えてくるケースがあります。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は①を中心にファナックを見てきました。企業の地域・国別売上高は、決算説明会資料や決算短信で見ることができます。国・地域別の売上高などを調べてから、その国の景気に関するニュースをチェックするようにしましょう(たとえば「中国 景況感」といった言葉でニュース検索してみる等)。