「PERで読み解くイオン」を読む
あの伝説の投資家、ウォーレン・バフェット氏も重視するPER(株価収益率)。PERは多くの投資家が投資をする際に参考にする投資指標の1つで、株価を1株あたり利益(EPS)で割ることで計算できます。そして、一般的には10倍、15倍というように倍率で表され、倍率が高くなれば割高、低くなれば割安と判断します。
(もしくは、時価総額÷当期純利益)
PERが低くても「買い時」とは言えないケースも
一般的には、同じ業種だったり、時系列でみてPERが低ければ、その銘柄は割安であると判断できることがほとんどです。しかし、業績が好調な半面、財務面で不安要素を抱えている場合は、割安のままマーケットで放置されているケースもあります。そのため、「PERが低くて割安だ!」と思って買ったとしても、なかなか株価が上がらないことがあります。
case5:ソフトバンク
今回は通信会社としておなじみの「 ソフトバンクグループ 」です。同社の事業は、国内の通信事業にとどまりません。2013年に約2兆円で米国・通信大手のスプリント社を買収したり、2016年に約3.3兆円で英国・半導体のアーム社を買収するなど、「通信・データ」に関する総合カンパニーとしてグローバル企業の一角になりつつあります。
一見割安に見えるが……
そんなソフトバンクの予想PERは14.6倍と業種平均16.2倍よりもやや割安です。海外でさまざまな企業を買収し、2017年度も増収営業増益となっていることを考えると一見買い時であるように見えます。しかし、同社に対しては2つの「懸念」があり、割安のままでいる可能性があるのです。
懸念① 財務不安リスク
1つ目は財務面のリスクです。一般的には、自己資本比率が高く、借金が少ない企業のほうが、財務面では優良企業と言われます。そうした中、ソフトバンクは大型の企業買収のために、銀行や投資家などから借金をすることによってお金を賄っており、その金額(有利子負債)はなんと16.3兆円にまで膨れ上がっています。同業である「 NTTドコモ 」が1639億円、「 KDDI 」が1.1兆円であることを考えると、その金額の大きさがわかります。また、自己資本比率は17%と、東証一部上場企業の平均51%を大きく下回っており、財務的には決して「優良」とは言い難い状況です(2018年3月末時点)。
懸念② 収益不透明リスク
そんな借金に加えてマーケットで意識されているのが、買収した会社や事業がまだ利益を稼ぐ柱にはなっていない点です。買収などによって2012年度以降、売上高は約3倍に増加していますが、それに比べて営業利益は6割の増加に留まっています。収益として貢献するのはまさにこれから、ではあると思われますが、大金をはたいてまで買収したことが本当に良かったのかと心配する声も聞かれます。
「投資リターン4000倍のアリババ」の再来なるか
ただ、このようなリスクはあるものの、M&A(企業買収)を通じて着実に利益を伸ばしていることは事実です。過去には、オンラインマーケットを運営するアリババに対して20億円を投資したことがありました。それが株式上場によって8兆円にも膨れ上がり、投資リターンは4000倍にもなりました。足元の投資もいつかこうした大きな利益になるのではないか、という期待がソフトバンクの株価を支えています。買収・投資した企業の利益が着実につみあがるようなら、PERの水準も上がってくるのではないでしょうか。
①これからの業績を考える
②会社の人気度を考える
③投資家の心理を考える
今回は①と③を中心にソフトバンクグループをみてきました。借金の比率が高かったり、買収した会社がまだ思うような収益を出せていなかったりすると、PERは低くなりやすいです。業績が好調にもかかわらず、PERが低いときは、その会社の借金の金額や、直近の投資案件について調べてみましょう。本当に割安で放置されている企業を見つけられれば、大きな株価上昇が期待できるかもしれません。