今回は投資信託についての設問です。基準価額(投資信託の値段)が異なっている、同じ日本株しかもTOPIX(東証株価指数)に連動する二つの投資信託があるとします。あなたはどちらを買いますか? という質問です。
第3回「買わないうちに株が急上昇! さあ、どうしよう」を読む
①Aは高いので割安なBを買う
②Aは運用が上手だから上がっているので、当然Aを買う
安い方がいいに決まってる!……本当に?
実は①と②、どちらを選んだとしてもココロの罠にハマってしまっています。
まず①のケースから見てみましょう。これは全くナンセンスです。なぜなら、どちらもTOPIXという日本の株価指数に連動するタイプの投信ですから、基準価額の違いは単に設定された時期の違いによるものだからです。
仮に現在のTOPIXが1500ポイントだとしましょう。ファンドAは、恐らくTOPIXが1000ポイントぐらいの時に設定されたはずです。投資信託は全て基準価額1万円でスタートします。設定当時からTOPIXが5割上昇したので、それに連動するファンドAの基準価額も当然同じように5割上がって1万5000円になっているのです。
逆にファンドBはもっとTOPIXが高い時に設定されていると考えられます。具体的に言えば今よりも3割くらい高い時に設定されていると考えられ、今の基準価格がたまたま7000円になっているに過ぎません。基準価格の違いは設定時期によるもので、どちらが割高・割安というものではないのです。
具体的な数字で考えてみましょう。もしここからTOPIXが2倍になったら1万5000円のA投資信託の基準価額は3万円になり、7000円のB投資信託のそれは1万4000円になります。でも投資信託は金額で購入しますから、10万円を投資した場合、どちらも倍の20万円になるという点では同じなのです。
「ヒューリスティック」の罠
つまり、単純に価格の低い方がおトクだとか、割安だと考えてしまうのは明らかに勘違いです。このココロの罠を行動経済学では「ヒューリスティック」といいます。冷静に考えれば正しい判断ができるにもかかわらず、“直感的に”判断して勘違いしてしまうのです。
例えば、よく “1日あたりにすればたった500円ですからコーヒー1杯分の値段で英語力がアップします!”といった謳い文句の英会話教材が売られています。でもこれを1年間に引き直すと18万2500円にもなります。その金額なら慎重に考えるのに、“500円”と言われるとつい買ってしまいがちになる、数字の見え方によって判断が変わってくる例です。
この場合もじっくり考えればどちらも同じだということがわかりますが、直感的には「500円」で判断して、安いと勘違いしてしまいがちなのです。
同様に②の答えも全くナンセンスです。なぜならファンドAが高いのは設定の時期の違いだけであって、ファンドマネージャーの腕でも何でもないからです。この2つの投資信託は共に日本の株価指数に連動するタイプで、基本的にはファンドマネージャーの意思で恣意的に銘柄を選んで売買するわけではありません。TOPIX(東証株価指数)と呼ばれる株式指数と連動するだけですから、腕が良いとか悪いとかはほとんど関係ないのです。
投資信託に「割安」「割高」の概念はない
それに投資信託は、言わば株式や債券といった有価証券の缶詰のようなものですから、株式のように割高や割安という概念は全くありません。多くの投資家はこのあたりを誤解しているようですが、価格が低いということと割安であることは全く意味が異なります。
「ヒューリスティック」というココロの罠に引っかかり、直感的に判断してはいけません。見た目の数字に惑わされて間違った判断をしないよう、投資信託の仕組みをしっかり理解しておくことが大切です。
今まで4回にわたって連載してきましたが、人間が本来持っている「損失回避性」が更に大きな損を呼び込んでしまうという事例や、論理的に考えず、直感的に判断してしまう「ヒューリスティック」というココロの罠などについてお話してきました。損得の結果がすぐに出やすい投資においては、より一層「感情」に流されることなく「勘定」を冷静に考えることが大切であることを心がけてください。