第3回 買わないうちに株が急上昇! さあ、どうしよう

投資は「感情」ではなく「勘定」で動け!/ 大江 英樹こばかな

さて、これまでは株を買った後に上がったり下がったりした場合の心理的な揺れを取り上げて話をしてきましたが、今回は少し変化球です。株を買いたいと思っていたのに、決心がつかないまま様子を見ていたら上がってしまって乗り遅れた、というケースです。最近では2017年の後半、非常に株価が好調でしたから、どうしようか迷った人も多かったのではないでしょうか。
第2回「株が下がった時に陥りがちなココロの罠とは」を読む

買わないうちに株が急上昇! さあ、どうしよう
①買っておかないと“持たざるリスク”があるので急いで買う
②いずれ下がるに違いないのでそれまで待って買う

“持たざるリスク”ってなに?

まず、①の行動を考えてみます。これはある程度株式投資の経験がある人が陥りやすいココロの罠と言えます。この行動の決め手となる「持たざるリスク」とは、「これから株は上がることが予想されるのだから持っていないこと自体がリスクになる」という意味です。でも個人投資家にとって持っていないこと自体がリスクになるとは一体どういうことでしょう。

結論から言えば、個人投資家の人には「持たざるリスク」などというものは存在しません。持たざるリスクがあるのは年金基金の運用を受託している人や、投資信託のファンドマネージャーのように“機関投資家”と呼ばれる人たちです。

「個人」と「機関投資家」は全く違う

彼らは運用成績で評価されます。他社の運用成績の方が良ければ顧客はそちらに行ってしまいますから、機関投資家の人たちは、他社に負けることは許されません。

仮に自分たちが相場の先行きに対して弱気の見通しを持っていて株式をあまり持っていなかったとします。ところが逆に他社は強気で株式をたくさん組み入れており、そんな中で株価が急上昇するようになったらどうでしょうか? 他社に負けるだけではなく、上がれば上がるほどその差は大きくなります。だから急いで株を買う必要があります。

こういう場合には確実に「持たざるリスク」は存在するのです。

ところが個人投資家は他の人の運用成績なんて何の関係もありません。自分が儲かるか損するかだけですから「持たざるリスク」もないのです。

このようにさも「持たざるリスク」があるかのように勘違いしてしまうのは、論理的に考えず、直感的に判断してしまう心理(ヒューリスティック)が影響しています。「みんなが買うから自分も買わなければ!」と直感的に思ってしまうのです。でも本当は、持っていない状態で株が上がってしまったとしても、無理についていく必要なんかないのです。機関投資家と違って、他の人がいくら儲かろうが関係ない個人投資家はあせらず次の相場が来るまで休んでいればいいのです。

そういう意味では②のパターンの方が正解に近いと言えます。ただ、このパターンには2通りのタイプがあります。1つは、業績を把握し、株価の割高・割安を冷静に考えて、「上がり過ぎている」と判断し、買いを見送る場合です。こちらは全く問題ありません。問題なのは2つ目のタイプです。

負け惜しみで発する「弱気」な言葉

それは「今は高過ぎるよ。そのうち下がるに決まっている」とうそぶく人です。このタイプの人は実を言うと、心の中では本気で下がるとは思っていないのです。本当は乗り遅れて、あせっているのです。ところがそれを言うと悔しいので、弱気な言葉を発するのです。こういう心理を「認知的不協和の解消」 と言います。自分の判断が間違ったことに対する自分への言い訳のようなものです。

でもこれは単なる負け惜しみに過ぎません。「下がる」というのは根拠のない願望で、今買うのは口惜しいから、今より少しでも下がったら買いたいと思っているだけです。
しかも、こういうタイプの人に限って、下がっても結局買わず、むしろ強烈に株価が上昇し始めると気持ちが一変し、買いに走るということになりがちです。

「持たざるリスク」があるかのように勘違いしてしまう「ヒューリスティック」や負け惜しみをしてしまう「認知的不協和」。これらは周りの意見や株価の変動に影響されることで起こります。やはり投資においてはそういった感情に左右されず、自分のペースで冷静に判断することが重要ですね。